2008年5月20日火曜日

いわき・遠野の里を訪ねる


大型連休に小名浜で開かれた「いわきの匠と技展」で、「遠野の匠」の一人、木桶樽職人(女性)にタガが緩んだ古い木桶の修理を頼んだ。ご本人はいなかったが、会場にいた息子さんが引き受けてくれた。

後日、連絡があって遠野へ取りに行く。遠野と言っても岩手の遠野ではない。いわき市遠野町。鮫川流域の山里だ。

川辺にある職人の家は一見、普通の民家である。道路から見れば仕事場は地下1階、川から見れば2階建ての1階だ。ご本人に道路側から下の仕事場へ案内される。天井が低い。

「あれつ、蒸し釜じゃないですか」
仕事場にでんと蒸し釜が置いてあった=写真。
「暖をとるのに使ってるの。時々ご飯も炊くんだよ」
「私も昨日(5月18日)、蒸し釜でご飯を炊いたばかりです」

なんという偶然だろう。私は非日常の、お遊び程度の蒸し釜利用でしかないが、ここではちゃんと暮らしのなかで生かされている。

このごろは、蒸し釜を使うすし屋がテレビで紹介されたりするが、庶民の暮らしの場ではすっかり遺物になった。形を説明できて、炊き方を知っている世代も、下は50代後半止まりだろう。面白いことに、東京生まれの人間は蒸し釜が分からない。主に東北限定のローカルな炊飯器だったか。

何年か前、いわき市平で蒸し釜を製造していたという人の話を聞いたことがある。3軒のメーカーがしのぎを削っていて、それぞれどこかに特徴があった。「○×式」と呼ばれていた。福島県浜通りの相双地区はおろか中通り、遠くは山形、岩手県辺りまで貨車で送ったそうだ。瓦製造業者が兼業するところもあった。

ついでながら、蒸し釜は小学生でも使える簡単炊飯器。昔の生活に戻れとは言わないが、原料も燃料も石油を使わない点では立派なエコ炊飯器だ。学校の教材にならないものか――などと、あらぬ方向へ考えが巡った。

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