2008年5月26日月曜日

乾し海苔


「焼き海苔(のり)」が当たり前になって、香り立つような「乾し海苔」とは無縁になった。物の本には、焼き海苔は乾し海苔中の最上品の裏表をていねいに焼いたもので、香気が高く、風味は優雅――とある。確かに、乾し海苔を焼いた、というよりあぶったときの香りと食味はなかなかのものだが、市販されている焼き海苔がそうだといわれると、判断がつきかねる。見た目は美しくても、香りをあまり感じないのだ。

「乾し海苔」は、保管も面倒だ。缶に入れておかないとすぐしける。入れていても湿気の影響は受けるから、食べる段になって火にあぶる。すると、しんなりしていたのがパリッとなる。口に入れると香りがある。かみごたえもいい。

それは、しかし私の記憶では昭和30年代前半までのこと。いわきで仕事をするようになってからは、食べる海苔はことごとく焼き海苔だ。あの香り高い乾し海苔はないものか――ずっと思い続けていたのが、ひょんなことから手に入った。カミサンの友達が宮城産の乾し海苔を持ってきてくれたのだ=写真。

火にあぶってパリッとさせる。かむ。もちもちっとする。おむすびを包む。ガムのように海苔が伸びる。弾力がある。

乾し海苔を焼き海苔に仕立て直したものもある。再びカミサンの友達が持ってきてくれた。産地は相馬市。松川浦で取れた海苔が原料だろう。焼き海苔だから火にあぶる必要はない。乾し海苔の食感半分、焼き海苔の食感半分、といったところか。

『いわき浜紀行』(平成14年・うえいぶの会刊)に故和田文夫さんが「いわきのノリ」を書いている。それによると、いわき地方では昭和の初めころ、地物の「永崎海苔」、あるいは「横内海苔」(久之浜)を行商する人がいた。いわきの地海苔は――いちどは食べたいものだが――すたれたか、あっても自家用に細々と生産されているだけにすぎなくなったことだろう。

私はネギに興味があって、「一本太ネギ」ではない地ネギ(たとえば「三春ネギ」)を栽培している。種を採って、育てた苗を植える――それと同じで、海苔も個性のある食品をとなれば、「地海苔」を探すしかない。ローカルに徹して、時間をかけて(情報が少ないので)、少しずつ。

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