2008年6月19日木曜日

街のコムクドリ


「ギュルル、ギュルル」。ムクドリと同じだみ声だが、やや細く甲高い。鳴き声のする方へ目をやると、いた。めったにお目にかかれない夏鳥のコムクドリが1羽、電柱のてっぺんで盛んに鳴いている。

ときは朝、ところはいわき市の中心市街地、平・南町のとある一角。商人主体の本町通りを表とすれば、職人のウデがまださびずに残っている一本裏の通りだ。

翌朝も、翌々日の朝も、コムクドリは同じ電柱、ないし近くの屋根の上のアンテナに止まって鳴いていた=写真。数羽がいるようだ。

コムクドリは春、ツバメと同じように南から渡って来て、本州中部以北の山地の林、北海道では平地の林で繁殖するという。平の市街地で見られるのは、だから渡りの途中ということになる。そのとき姿を拝むことができるといっても、そうは問屋が卸してくれない。私は二十数年前と2年前の2回、しかも一瞬だけ遭遇したにすぎない。

戸沢章さん(平)が昭和49(1974)年から平成15(2003)年までの29年間にわたって観察した記録の集大成、『いわきの鳥』(平成17年刊)でもコムクドリの観察例は都合6年間で9回と少ない。

一過性の鳥にしては、今回は随分と長逗留だ。私が鳴き声に気づいてからだけでもう3日になる。時期的には子育てが終わったか、終わりかけるころだろう。今ごろまだ渡りの途中、というノンビリ屋がいるとは思えないから、この街に留まって営巣したのではないか――。だんだんそう考えるのが妥当のような気がしてきた。

事実とすれば、留鳥のように振る舞っているワケが理解できる。で、そうだとして、街中での繁殖はコムクドリにとって決して例外ではない、のかどうか。例外だとしたらなにがそうさせたのか。推測は推測を呼び、渦を巻いて、意識の中を駆け巡る。それもこれもコムクドリは私のなかで「幻の鳥」だったからだ。

きょう(6月19日)も鳴いているだろうか。数は? オスは? メスは? なんだかすっかりコムクドリに頭を占領されたようである。

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