2008年7月1日火曜日

落石で立ち入り禁止に


夏井川渓谷の小集落、いわき市小川町上小川字牛小川の対岸は三和町。深い山を越えて下れば下永井字軽井沢の集落だ。対岸へ渡るには夏井川第二発電所のつり橋を利用する。水量が少なければ、岩がゴロゴロしている渓流を渡渉することもできる。

対岸には水力発電用の導水路があって、遊歩道を兼ねた巡視路が川に沿って延びている。私はときどき、この道沿いに続く渓谷林を奥まで行ってみる。一帯は「阿武隈高地森林生物遺伝資源保存林」に指定されているから、むやみに山の方へは入り込まない。

土壌が少なく岩盤が露出している厳しい環境だけに、渓谷林ではアカヤシオやシロヤシオといったツツジ類のほか、モミと松などの常緑針葉樹が目立つ。アカマツはほぼ松食い虫にやられた。岩盤は今もときどき崩落している。落石が巡視路に散乱しているので、それと分かる。

数年前、知人夫婦が牛小川の無量庵へ遊びに来たとき、対岸から大轟音がとどろいた。木々もワサワサ揺れるのが見えた。落石だった。夏井川に注ぐ「木守(きもり)の滝」の手前が、その現場。30センチ大の石が4、5個、巡視路に散乱していた。戦闘機の爆音と間違えるほどの轟音に、近所のおばさんも「ナニゴト?」と家を飛び出してきた。

それと同じ場所でまた落石があった。久しぶりに対岸を歩こうとしたら、すぐ立ち入り禁止のロープに遮られた。畳半畳くらいの三角形に近い石からその半分くらいの石まで、何個かがロープの先の道をふさいでいる=写真。私が見知ったなかでは一番大きな落石だ。斜面のモミの樹皮もその衝撃でべろりとはがれていた。その場所を、これから「崩れ」と呼ぶことにしよう。

「崩れ」には剥離・崩落した岩盤のかけらがゴロゴロしていて、モミなどの幹に支えられてはいるものの「浮石」状態になっている。そのため、森の奥へと足を踏み入れるときには、私は必ず「崩れ」の斜面を見上げながら素早く通り過ぎる。これまではたまたま静止状態だっただけ、ということが今度の落石でも分かった。

街を歩いているような、のんびりした感覚では、この巡視路は歩けない。いのちの危険に直面しているのだという認識、とっさの危機回避能力、すなわち野性をよみがえらせておかないとけがをする。

この程度の落石でも人間を震撼させずにはおかないのだから、「岩手・宮城内陸地震」で起きた山崩れや土石流は想像を絶するほど強大・凶暴なものだったに違いない。夏井川渓谷といえども絶えず死の危険がひそんでいる。そのことを行楽客も肝に銘じておいてほしいのだが、やはりどこかに街歩きの気楽さが漂う。「崩れ」の近くに注意喚起の標識が必要だ。

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