2008年7月16日水曜日

ハチクマのいる谷


日曜日(7月13日)の早朝、いわき市小川町上小川の磐越東線江田駅前で会った野鳥の会いわき支部の「行動隊長」氏は、「夏井川渓谷のハチクマ」がお目当てだった。そのことをおととい(7月14日)、紹介した。

彼との話で、久しぶりにいわきの野鳥の現況を知った。野鳥を含む夏井川渓谷の生き物について二、三、分かったことを書く。

まず、夏鳥のアカショウビン。何年か前に一度、「キョロロロロー」という鳴き声を聞いた。その話をすると、この渓谷に来てもおかしくないという。幻聴ではなかったのだ。

アカショウビンのえさは大半がカエル。すぐ思い浮かぶのは渓流のカジカガエルと林内のアカガエルだ。渓流には赤土の層がないので、アカショウビンが渓谷で営巣するとすれば、キツツキの古巣を利用するはずという。以後、鳴き声は聞かないから飛来・繁殖はないのだろう。

冬に渓谷の小集落でニュウナイスズメを見たことがある。一度きりだったので見間違いかと思っていたが、いわきへもいっぱい渡って来る。見間違いではなかったのだ。同じ冬鳥のアトリは一度、大群が渓谷へ現れた。いわきでは少ないという。主に西日本で越冬する。

エゾハルゼミが渓谷に生息していること、夏鳥のコムドリがいわきの市街地で繁殖していることなども、「行動隊長」氏の話で分かった。

さて、「行動隊長」氏お目当てのハチクマは夏鳥である。ハチの幼虫を好んで食べるから「ハチ」、同じタカの仲間のクマタカに似ているから「クマ」、合わせて「ハチクマ」という名前をちょうだいした。狩りをしているとすれば、渓谷の高い尾根=写真=に巣があって、そこから徐々に谷へ降りて来るらしい。

ハチクマが飛来したからといって簡単に見られるものではない。この日、「行動隊長」氏はスコープを装着した三脚をわきに置いて、双眼鏡で空を追った。ハチクマの代わりにすぐ、裏山を旋回するサシバのつがいをスコープでとらえた。松のこずえに雌が止まっていた。つがいで飛び交っていたからひなが孵ったのかもしれないという。

スコープの威力はすごい。すぐそばにいるような鮮明さでサシバが羽を休めていた。デジスコ写真はそうして撮影するものなのだと納得した。ただし観察より撮影を優先するアマチュアカメラマンがいる。むやみに巣に近づくと子育てを放棄する鳥がいるが、そのことには思いが至らないのだ。そういう人間に限ってマナーも悪い。ごみを置いてくる。

人間と自然の交通とは何か。人間が一方的に自然から資源を収奪するだけなら、その資源はいずれ枯渇する。野鳥の写真が撮れればいいというだけの人間の感覚もそれに近い。鳥に迷惑をかけない、来たときよりきれいにして帰る――自然に身を置く人間には、この慎み深さが要求される。

慎み深いうえに考え深い「行動隊長」氏はしばらくねばっていたようだが、ハチクマにはたぶん出会えなかっただろう。代わりにホオジロやサシバを観察して十分、満足したはずである。

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