2008年9月15日月曜日

満月の夜、伝承郷で篠笛を聴いた


「伝承郷へ篠笛を聴きに行こう」というので、いつものように運転手役を務める。いわき市暮らしの伝承郷に移築された民家(旧猪狩家)で、中秋の名月(9月14日)の晩、篠笛コンサートが開かれた。

その日、一番列車で夏井川渓谷の無量庵へやって来たカミサンと、夕方、帰宅したばかり。できればすぐ、わが家で月見酒を、といきたかったが、伝承郷で満月を見るのもいいかと頭を切り替えた。アルコールでのどを消毒する時間をずらせばいいだけのことである。

ぱらついていた雨は上がったものの、雲が空を覆っている。会場の旧猪狩家の座敷は、すでに人で埋まっていた。

土間に置かれた折り畳み式のいすに座って待っていると、掛け時計が「ボーン、ボーン」」と6回鳴った。6時が開演時間である。「おおーっ」と詰めかけた人たちからどよめきが上がった。かやぶき屋根の農家にふさわしい、粋な演出である。掛け時計のゼンマイを巻いて時間を合わせたのだろう。

旧猪狩家の向かいには小高い山がある。月はそこから昇る。演奏が続くこと1時間、ときどき雲の切れ目を月の光が明るく照らすものの、月そのものはまだ雲に隠されている。と、少し大きな雲の切れ目ができたとき、山の上に満月が姿を現した。一瞬の出現で、すぐまた月は雲に隠れた。

夜の伝承郷に入るのは初めてだった。それも当然で、夜まで開館時間を延長したのは、伝承郷としては初めてのことだという。園内通路のフットライトがやさしい。民家の奥、2基の照明塔がお祭り広場を明るく照らし出している。篠笛に和する虫の音、といってもにぎやかな音を振りまいていたのは帰化昆虫のアオマツムシではなかったか。

旧猪狩家から離れて屋敷の前の道へ出る。道から見る会場の雰囲気もよかった=写真。――闇の向こうに庭先が明るくともったかやぶき屋根の家が見える。ススキなどが飾られた縁側から座敷には150人ほどの人がすきまなく座り、女人が庭で奏でる篠笛を聴きながら山の端に満月が現れるのを待っている。

かやぶき屋根の下の人間の寄り合い、庭先の演奏、満月。現実に見るのは初めての光景ながら、心地よい既視感に襲われた。

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