2008年11月13日木曜日

「石川葎展」始まる


石川葎展が11月12日、いわき市暮らしの伝承郷で始まった=写真。同展実行委員会が主催し、いわき地域学會・同暮らしの伝承郷が共催している。16日まで。

石川葎(本名・美子=1928―2001年)。「近代詩文」を得意とした書家だ。同門の「墨調社」主宰・宮本沙海さんは石川葎展の図録で、「体当たりの飾らない本物の美しさをたたえていて実にたのもしい」書であり、「『文学と書と人』が上質に結びついた信念の書」と、その書体を評している。

いわきの喫茶店や割烹、ブティック、お菓子のロゴマークが、書の場合がある。作者は石川さんという例が少なくない。デザイン的にもすぐれた書体だった。

旧磐城平藩の城下町、平・本町通りの商家に生まれた。江戸時代には「余力学問」で俳諧をたしなむ商家の旦那衆がいた。石川さんの先祖も、ほかの商家の先祖も、一日の商いを終えると、いっとき、風流の世界に遊んだはずである。そんな家柄だから、石川さんも短詩型文学を親しいものに感じていたのではないか。

生前、人を介して、江戸時代の俳諧を調べるなら、どこの誰の所へ行った方がいい、といったアドバイスを受けたことがある。平・山崎の専称寺で修行した俳僧、一具庵一具(1781―1853年)を調べていたのが、耳に入ったらしい。石川さんはそれから間もなく亡くなり、教えてもらったご老人も亡くなった。

それはさておき、遺作展でも「永劫(永遠)・瞬間(矢)・循環」といった世界、いうならば地質学的時間、いや天文学的時間にまで想像力を働かせる石川さんの感性を再確認させられた。

元NHKディレクターで9月に亡くなった吉田直哉さんのエッセーの一節を切り取った書がある。「時間とはゆきてかえらぬ矢である しかし反面 日はまた昇り 花はまた咲く環でもある 矢と環の二面を永遠が結ぶ」

平地学同好会の一員でもあったわけが、ここにある。「一億年程前の 石の魚が いま 自分の前に横たはっている 時が流れ 雲が流れる」(草野心平)。西脇順三郎に引かれるのも、彼が「永劫の旅人」だったからだろう。「時間」について振り返るいい機会になるかもしれない。

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