2009年1月25日日曜日

草野比佐男「くらしの花實」


昨年10月、いわき総合図書館に草野比佐男さん(1927~2005年)の遺族から草野さんの著作二十数冊が寄贈された。草野さんはいわき市の山あい、三和町に住み、農林業を営みながら創作活動を続けてきた作家だ。歌集5冊、詩集4冊、小説集2冊のほか、評論集5冊、エッセー集1冊がある。

寄贈された著作の中に、草野さんが日本農業新聞に毎日連載した「くらしの花實」の自家製本(コピー)=写真=6冊がある。朝日新聞でいえば、大岡信さんの「折々のうた」だ。

「折々のうた」は昭和54(1979)年に始まり、平成19(2007)年に終了した。途中、2年なり1年なり休載しながらも、27年間で連載回数は6,762回に達した。「くらしの花實」は草野さんの死をもって終わるまで9年間続き、2,869回で<完>となった。

大岡さんの博識ぶりはつとに有名だが、草野さんの渉猟ぶりもそれに負けず劣らずすごい。第1回は永田耕一郎という人の俳句「気の遠くなるまで生きて耕して」。短詩型文学を主に、縦横無尽に書物をあさり、すくいとって解釈を加え、最後は「わが眼鏡捜しておれば夫もまた捜しておりぬ」(礒貝美子)の短歌で終わった。

「短評」の舞台が日本農業新聞であり、自身農民であるために、草野さんは農業短歌・俳句・詩を多く取り上げた。でも、大須賀乙字や井上靖、俵万智のほかに、寒川猫持、詩人の辻征夫の作品にまで目を通している。その渉猟ぶりにうなった。ものすごい勉強家だったのだ。それに比べたら私の読書などまだまだ甘い。

2,864回目に「お断り」が載った。「選者の草野比佐男さんが亡くなりましたが、今月中は遺稿を掲載します」。平成17(2005)年9月22日没。その日に私の母親もあの世へ旅立った。

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