2009年2月12日木曜日

昭和30年代の冬の夏井川


いわき総合図書館内の「愚庵文庫」を目で漁っていたら、草野悟郎さんのエッセー集『百合』が引っかかった。新書版で、奥付に非売品、昭和37(1962)年2月発行とある。通称「ゴロー先生」。詩人草野心平のいとこで、当時、平二中の校長を務めていた。生徒会誌や新聞などに発表した文章が収録されている。

なかに<早春幻想>と題された、生徒向けの文章がある。書き出しはこうだ。「今朝も夏井川に氷が流れる。この冬三度目のことである。夏井川に氷の流れる朝は、格別寒さがきびしいのだと人々は云う。たしかに寒い。しかし二月もなかばとなれば、さすがに陽の光がちがう。明るさがちがう。はっきりと目には見えないが、春はもう近くに忍び寄っている」

自然は争わない、調和を保って移っていく。ところが、人間はあせっている、いらいらしている。どんな人間にも花は咲く。生徒諸君、木々や草々の誠実と賢明を学ぼう――というのが文章の趣旨だが、ここでは冒頭の夏井川の氷に絞りたい。

ざっと半世紀前の冬、夏井川=写真=には上流から氷の流れてくることがあった。東北で一番早く春が来るところとはいえ、冬はいちだんと厳しい寒気に包まれる、そんな日々もあったのだ。

今はどうか。流氷を見るなんてことはまず考えられない。この30年余の間でも、夏井川の岸辺が白く凍りつくような厳冬は、2回、いや3回くらいではなかったか。「ゴロー先生」と同じく、平二中学区内の夏井川を毎日見て暮らしている者には、半世紀前の流氷は夢まぼろしに等しい。

今年は暖冬のまま推移した。旧小名浜測候所の梅も2月8日には開花した。いわきに住む気象庁OBが確認した。昨年より7日、平年より10日早い。おととい(2月10日)早朝には夏井川の河川敷で、この春初めてキジの縄張り宣言を聞いた。そろそろウグイスも歌いだす準備に入ることだろう。

0 件のコメント: