2009年5月27日水曜日

月光のような一絃琴の音


いわき市平のアートスペース・エリコーナで志賀敏広個展「花」が始まった。5月31日まで。会期中の30日夕方、清虚洞一絃琴宗家四代峯岸一水さん(東京)の演奏会が開かれる。

志賀さんは双葉郡川内村在住の陶芸家。知り合って15年ほどになる。今度の個展では、いわき開催のために案内状の作製などを頼まれた。陶芸ではなく油絵であるところがミソだ。

で、先日、志賀さんの案内で峯岸さんが会場を下見したあと、わが家へ立ち寄った。ありがたいことに一絃琴のデモ演奏をしてくれた。

一絃琴は古来、演奏する人の情操を養い、人格を磨くための楽器、といわれる。「酒席で弾いたら破門されます」。ほんの少しの時間だったが、CD=写真=を聴いて感じていた以上に「内省の音楽」であることを実感した。

弾き手は弾き手で自分の心と向き合い、聴き手は聴き手で自分の心と向き合う。おのずとそうなるようなリズムとメロディー。デモ演奏を聴いたあと、大急ぎで宮尾登美子さんの小説「一絃の琴」を読んだ。坂本竜馬も習ったという土佐一絃琴の世界が描かれている。

幕末、真鍋豊平という一絃琴奏者が京都を中心に活躍した。その門下生に土佐藩士が多かったことから、土佐に一絃琴が根づいた。それがよく分かった。

この真鍋豊平の門下生の一人に、清虚洞一絃琴宗家流祖の徳弘太橆(とくひろたいむ)がいた。峯岸さんは太橆の玄孫。伝統を継承しながらも新しい試みに積極的に取り組んでいる。

演奏会では5~6曲を予定している。峯岸さん作曲の「こころ、しずかにする、おと」についての解説に、こうある。「一絃琴の音を月の光のようなイメージで浴び、一絃琴の音のすみずみまで耳を澄ますと、心が静かになっていくことがわかります」。まさにこれだ。一絃琴の音を何かにたとえるとすれば、人里離れた山峡に降り注ぐ月の光。

去りゆく5月最後の土曜日、よろしければ足をお運びください。

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