2009年8月5日水曜日

じゃんがら2題


きのう(8月4日)のNHK歌謡コンサートには驚いた。五木ひろしさんら錚々たるメンバーに伍して、いわき市出身の紅晴美さんが出演し、「じゃんがら恋唄」を歌った。紅晴美さんの名前は、新聞かポスターで見た記憶があるが、定かではない。歌ももちろん初めて聞いた。55歳のシンガー・ソング・ライターだという。

炭鉱長屋で育った。音楽学校を出てピアノ講師などを経験し、41歳で歌手の道へ進んだ。ラジオ福島の「かっとびワイド」のパーソナリティーを務めて人気が出た。今年4月にメジャーデビューを果たした――ということを、ネットで知った。

「じゃんがら恋唄」の「じゃんがら」はいうまでもなく、いわき地方で新盆供養のために青年会が唱え踊る郷土芸能「じゃんがら念仏踊り」のこと。いわきの8月は〈チャンカ、チャンカ、チャンカ〉の鉦の音に象徴される「じゃんがらの夏」、市民の体内に眠っている「じゃんがらのDNA」が目覚める季節と、おととい(8月3日)書いた。

この「じゃんがらの夏」に合わせて歌が発表されたのだろう。♪私の生まれた町は ハーモニカ長屋……耳をすませば 聞こえてくるよ じゃんがらの音が……。炭鉱住宅は、通称「ハモニカ長屋」。月遅れ盆の夜、じゃんがらの一行が鉦を鳴らしながら新盆の家にやって来る。すると、大人も子供も踊りを見物するために、わらわらと外へ出る。

炭鉱は閉山し、ハモニカ長屋は姿を消した。喪失、そして望郷。よそへ転出したいわき人にとっても、「じゃんがら」は郷愁のリズムだ。それを代弁する「じゃんがら恋唄」である。(紅白出場の夢がかなうといいですね)

もう一つ。いわきの有志が5つの青年会・保存会の「じゃんがら」を録音したCDを制作した=写真。併せてミュージシャンや研究者が「じゃんがら賛歌」の文章を寄せている。その一人がCDを持って来た。音楽好きの若者は「じゃんがら」とジャズやロックの親近性・親和性を肌で感じ取れるのだろう。その延長でのCD化だ。

なにか「じゃんがら」に新しい息吹が宿る、そんな時代がきたのだろうか。江戸時代から続く“地音楽”と“地踊り”、変わらぬ本物のソングとダンスによる一体感・連帯感、これが先行き不透明で不安な時代に「じゃんがら」が希求される理由かもしれない――なんて考えたりする。

「じゃんがら」は地域によって微妙な違いがある。CDに収録された小谷作、成沢入藪、赤沼各青年会、下好間念仏保存会、舘じゃんがら念仏保存会の「じゃんがら」も、一つひとつ味わいが異なる。〈このアルバムを忌野清志郎、下村誠、八木昭、全てのじゃんがらプレイヤーに捧ぐ〉としたところがニクイ。

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