2009年10月15日木曜日

北欧の光合成


ノルウェーの山岳地帯を列車でたどったとき、ところどころ、眼下の谷から山に向かって広がる放牧地が見られた。急斜面の放牧地だから、面積はそう広いわけではない。

四国の吉野川沿いを列車で通ったことがある。甲子園で名をはせた池田高校のあるあたりの地形が記憶に残っている。「オオボケ・コボケ(大歩危・小歩危)」といった場所もあった。

この土讃線は、日本では、というより夏井川渓谷に比べれば、スケールの大きい急峻な谷が連続する。荒涼としたノルウェーの山岳風景を眺めながら、その光景を思い浮かべていた。

四国のV字谷は、急峻な地形ながらも「耕して天に至る」人間の営みが感じられて、風景が温かかった。延々と続くノルウェーの渓谷は、山そのものがむきだしの岩盤といってもいい。耕せるほどの土地は谷底の一部だけ、それも多くは放牧地、という荒涼とした印象を受けた=写真。「放牧しても天には至れない」のだ。

人間の営みが可能なのは一部でしかない代わりに、彼らは険しい山岳をウオーキングする術を磨いてきた。そうに違いない。これだけの大自然だ、山の頂上に立って周囲を見回したい、と思わない方がおかしい。日本人ガイドのアダチさんに聞けば、精密なマップがあるという。

放牧地には主に羊が放たれていた。所によっては万年雪が横たわる酷薄な気象と地形である。以前は山羊を放牧していたと聞けば、いかに厳しい環境かということが分かる。急斜面も平気な山羊だから飼うこともできる、いや、日本流に言えば山羊しか飼えなかった、ということだ。

それはさておき、アダチさんが車窓を眺めながら説明してくれたことが忘れられない。北欧の夏は白夜になる。「一日中、草は光合成を続けている。夏の牧草の生産性は高いですよ」。なるほど、それはすごい。初めて知る白夜の一面だ。冬は当然、その逆になる。

日本も秋色が濃くなり、日が短くなった。北欧のような白夜はないが、秋から冬には夕方の暗さが気持を落ち着かなくさせる。夏は“白夜“だが、冬は朝9時に日が昇り、午後3時には沈んでしまうという日の短さだ。向こうの人たちも冬は気持ちが沈潜するのではないか。その分、夏は爆発的な開放感にひたるのかもしれないが。         
ついでに言えば、ビートルズの「ノルウェイの森」と、それをタイトルにした村上春樹の小説『ノルウェイの森』は、ノルウェーとは直接の関係がない。音楽のもととなった「情事」をそのままテーマにしたようなものだろう。

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