2010年1月15日金曜日

佐伯一麦の小説


佐伯一麦の『川筋物語』は11年前の1月に出版された。すぐ買って読んだ。仙台市を流れる広瀬川をさかのぼり、最後は河口へ戻って来るルポ風物語だ。その物語が終わったあとに、まるで付録とでもいうかのようにノルウェーのある川の遡上記が載っている。地球のさいはての川の話ではイメージが浮かばない。読み残した。

〈定義(じょうげ)〉の章に〈門前町の突き当たりの寺院が浄土宗の極楽山西方寺。正式名称よりも「定義さん」「定義如来」などの通称で親しまれている〉とある。東北地方の浄土宗はおおむね、いわき市平山崎にある專称寺を総本山とする元浄土宗名越派の末寺とみていい。佐藤孝徳著『專称寺史』に当たると、やはり末寺に極楽山西方寺があった。

太宰治の『津軽』にも浄土宗の寺と坊さんの話が出てくる。今別の本覚寺と、住職を務めた貞伝和尚だ。本山の專称字で修行した貞伝和尚は名僧として知られる。

江戸時代の磐城平は東北地方への情報の発信地だった――著名な作家の作品を介して、かつてのいわきの宗教文化の高さを誇らしく思ったものだ。

読まなかったノルウェーの川の話が頭のどこかに残っていたのだろう。いわき総合図書館で佐伯泰英の小説を探していたら、『ノルゲ』と題する佐伯一麦の小説が目に止まった。泰英はちょっと置いて、一麦に集中することにした。

昨年秋、北欧を旅して以来、向こうの本を読み続けている。日本人作家ないし詩人の書いた「北欧本」はないものか――佐伯一麦の本の背文字に触れて、彼のノルウェー体験がよみがえったのだ。

『ノルゲ』を借りて一気に読んだ。『川筋物語』も借りて読み残しの「アーケルス川」を読み、『まぼろしの夏その他』を読んで、今、『マイシーズンズ』を読んでいる=写真

春・夏・秋・冬と季節ごとにノルウェーを訪れ、さらに一年間滞在した経験を小説化したのが『ノルゲ』。『マイシーズンズ』はそのきっかけとなったテキスタイル作家(故人)への、手紙のかたちをとった季節ごとのノルウェー探訪物語だ。単なる旅行者ではない、半滞在者の目で見、耳で聞き、体で感じたノルウェーの人と自然が濃密に描かれている。

夏の「白夜」、その反対の冬の「極夜」。捕鯨を介したノルウェーと日本との交流。ノルウェー人の気質、文化、その他が、ほんの少しだが皮膚にしみこんでくるような錯覚を覚える。「一見は百聞にしかず」で、しばらくは佐伯一麦の本を手放せない。

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