2010年3月2日火曜日

一具の句幅


江戸時代は幕末に活躍した俳僧一具庵一具(1781~1853年)の句幅が床の間に掛けられた=写真。一具は今の山形県村山市で生まれ、いわき市平山崎の專称寺で長らく修行した。福島・大円寺の住職に就いたあと、江戸へ出て俳諧の宗匠になった。

前にも書いたが、句幅はいわき地域学會初代代表幹事の故里見庫男さんにいただいた。

一具の筆の通りに難しい字を記しても意味がない。私自身が分からないのだ。『一具全集』にある活字の句で代用する。

梅咲て海鼠腸(このわた)壺の名残哉(かな)

ナマコのはらわたの塩辛が「このわた」。それが切れかかるころに梅が咲く、つまり春がきざす。寒さの冬に光の春が入り込む――そんな感じをとらえた句だろうか。

2月は1月の延長のようだったが、3月は4月の先ぶれのような感じがする。年度の終わりというよりも、新しい年度への準備に追われる月といった方がいい。のんびりしていた反動だろう。

2月の天気は少しきつかった。何度も雪が降って冷え込んだ。それでも山野には光が注ぎ、大地をぬくめて、次の季節へとめぐる準備が始まった。よその家の庭にある梅は既に満開。吹きさらしの畑の一角にある野梅もそこかしこで咲き出した。

この空の長くはもたじ梅の花
日は雲を照らして寒き野梅哉
すき間なく咲て野梅に雨近し

めまぐるしく天気が変わる今の時期を表したような一具の梅の句である。

3月。気持ちを改めるうえでも、毎日、一具の句幅を眺めて黙読する。それを介して浄土にいる人と対話する。そんな気持ちでしばらく向かい合おうと思っている。

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