2011年5月27日金曜日

緊急講演会


ペシャワール会現地代表中村哲さん=写真=の講演会がおととい(5月25日)夜、いわき駅前再開発ビル「ラトブ」6階会議室で開かれた。いわき市九条の会連絡会が主催した。

中村さんの講演会は、福島県九条の会の手で5月22日、いわき芸術文化交流館「アリオス」大ホールで開かれることが決まっていた。それが、東日本大震災の影響で会場使用不可となり、中止を余儀なくされた。

以前にもいわきで講演会が企画されたが、それもよんどころない事情で中止になった。「ぜひ、被災したいわき市民を応援したい」との中村さんからの申し出で、急きょ、講演会が実現した。「今度ばかりは義理を立てないと気が済まない」。中村さんは講演のなかで胸の内を明かした。「三度目の正直」だ。

ペシャワール会の資料によれば、医師の中村さんは1984年、パキスタンのペシャワール・ミッション病院ハンセン病棟に赴任し、10年間診療活動に従事した。この間、アフガニスタン難民への診療を本格的に始め、アフガン国内にも診療所を開設した。1998年にはパキスタン、アフガニスタン両国の拠点となる基地病院を建設した。

2000年夏、アフガンは大干ばつに襲われる。飲み水、農業用水が確保できないために人々は難民化し、深刻な水不足が原因で赤痢その他の感染症が急増した。このため、中村さんは医療活動と並行して井戸掘り事業を始め、2001年にアフガン空爆が始まると、避難民に緊急食糧配給を実施した。

医療から始まった活動はやがて用水路建設、自立定着村、試験農場、モスク、マドラサ、寄宿舎づくりへと、住民の生活全般にわたるものになった。

中村さんは言う。アフガンは山の国。ほとんどがヒンズークシ山脈に占められる。その山々に積もる雪がアフガンの農業を支える源だが、地球温暖化の影響で積雪量が減り、春には雪解け水が濁流となって暴れ下り、夏には干ばつに見舞われる。ひとたび雨が降れば洪水になる。

昨年夏には大洪水が起き、既設・建設中の用水路が至る所で被害を受けた。それから復旧へ、工事完成へと組織を挙げての真剣勝負が繰り広げられ、去る3月下旬、「カマ用水路」が事実上竣工した。

取水口・用水路づくりには「斜め堰」「蛇籠(じゃかご)工」「柳枝(りゅうし)工」といった日本の中・近世の伝統技術が使われた。自然を畏れ、敬い、自然と共存する中から生まれた土木技術である。しかも、その技術は現地の人々の間に根づき得るものだ。現地にある石を利用して蛇籠をつくる。壊れれば自分たちでそれを直すことができる。

大干ばつ、大洪水に見舞われるアフガンの人々と、昔の日本人の暮らしが重なる。そして、今度の大震災、自然を見くびったことによる原発事故も……。

中村さんは講演前にいわきの被災地を見て回った。根底においてはアフガンも、いわきも(ほかの被災地も)同じだという。人間と人間の関係、人間と自然の関係について、江戸時代にまでさかのぼって考え直すべき、ここで根源的な問いを発さなければ人間は滅びる――と締めくくった。

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