2011年6月19日日曜日

カッコウ定留


海に近い夏井川の下流にカッコウの鳴き声が響く。早朝と夕方、堤防を散歩しながら耳を澄ませる。鳴かないときもあるが、今年はどうやら定留しているようだ。

鳴き声を聞くこと自体、3年ぶりである。それが定留しているとなると、20年ぶりくらいではないか。それほど私の中では、カッコウ飛来・定留はビッグニュースだ。現役ならば当然、記事にしている。

今年初めて鳴き声を聞いたのが6月4日。以来、6日夕方、14日早朝・夕方、16日夕方、17日夕方と、鳴き声を耳にした。いよいよ夏井川の岸辺林を飛び回っているのがはっきりした。

14日夕方にはホームレス氏と知り合いになった。台車に“家財道具”を積んで夏井川の堤防を歩いていた。健脚である。追いつけない。そこへ後ろから川砂利を積んだダンプカーがやって来た。ちょうどアスファルト路面がへこんでバラスがまかれたところにさしかかっていたため、台車が思うように動かない。手を貸して台車を道端に寄せた。

それが縁で少し話した。どうもよくわからないところがある。「どこへ行くの」「横浜」「どこから来たの」「名古屋から」。名古屋から北上してきたが、いわきから先に行けないのでUターンすることにしたのだろうか。顔は赤銅色に日焼けして、ひげをはやしている。ひげは白いが、還暦前かもしれない。

話しながら橋のたもとに着いた。そのへんで野宿することに決めたらしい。「ここいらに警察は来るかい」「パトカーはときどき巡回してるよ。前に一度、橋の下=写真=で人が一泊したのを見たことがあるなぁ」。そのとき、カッコウの鳴き声が聞こえたのだった。

翌日の夕方、橋のたもとに近づくと、草むらに“家財道具”を置いて、ホームレス氏が“夕寝”をしていた。本当の草枕である。その時間帯、カッコウは沈黙したままだった。

翌々日早朝の散歩で、ホームレス氏と少し話す。私が首から提げているカメラをほめた。「カメラだけはいいんだ、使いこなせないけどね」。横浜には仲間が5人いて、その一人の女性がカメラをやるのだという。「このへんに変な奴はいないけど、注意してね」。そういって別れる。

その日の夕方、ホームレス氏の姿はなかった。カッコウの鳴き声が下流の方から聞こえてきた。南へ、南へと“家財道具”を積んだ台車を引きながら歩いて行く彼の耳にも、カッコウの鳴き声は届いたはずだが、そして自由な精神には人語も、鳥語もしみわたるはずだが、彼と「カッコウが鳴いてるね」「ほんとだ」なんて話をしなかったのがちょっぴり悔やまれた。

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