2011年12月16日金曜日

新聞公正取引協議会


平にある楢葉町の作町応急仮設住宅を訪ねたときのことだ。集会所前の掲示板に「新聞購読申し込み」の案内チラシが張ってあった=写真。販売店ごとに勧誘すると混乱を招きかねないため、新聞公正取引協議会福島県支部が一括して申し込みを受け付けることになった――というのが内容だ。業界にとっては新ルールである。

チラシにはさらにこうあった。「津波被害や福島第一原発事故により、皆様の地元でご愛顧いただいております新聞販売店スタッフも避難生活を余儀なくされています。連絡が取れないなど、ご不便をお掛けしておりますが、ご理解下さいます様お願いいたします」。新聞を届ける側も同じ被災者。そのことを私は忘れないようにしよう。

新ルールは、阪神・淡路大震災に乗じて行われた過当販売競争の反省から生まれた、と言ってもいいのではないか。神戸新聞社編『神戸新聞の100日』(プレジデント社刊)によれば、あのとき、神戸新聞読者を狙い撃ちにした販売拡張が行われ、週刊誌などで取り上げられたことから、過当販売競争が社会問題化した。

このため、日本新聞協会は販売正常化を呼びかけると同時に、被災地域全域を「正常化モデル地区」に指定した、という。

仮設住宅の入居者は、ただでさえ心が穏やかではいられない。それは「普通の生活」ができなくなった、ということだ。

農を業とする人たちばかりでなく、農を暮らしの一部に取り込んでいる人たちがいる。「自産自消」の家庭菜園をイメージするといい。土と向き合って野菜をつくることができなくなった人たちの精神的な苦痛は深い。それが胸底に沈潜している。

そんな状態のところへ新聞勧誘員が入れば、ますます落ち着かなくなる。「一括申し込み」は仮設住宅の平穏を保つための大人の対応だったと、私は評価する。

被災直後は情報が入らず、避難所などに配られた新聞がむさぼり読まれた。が、購読となるとどうか。岩手県の事例では、仮設住宅での新聞購読は期待したほど伸びていない。経済的な問題も含めて「仮の生活」が新聞購読をためらわせているのだろうか。

私は、それだけではないと思う。新聞が被災者に寄り添い切れていないのだ。時の経過とともに変わるニーズがある。それを新聞記者は気づいているだろうか。もっと被災者一人ひとりに向き合え――そんなことを、最近の新聞紙面を通して考えたりする。

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