2012年1月7日土曜日

宝船


中神谷は、かつては平市街地への野菜供給地だった。今は田畑が住宅地に変わり、新旧の住民が混在するベッドタウンと化した。アパートの隣に農家(だいたい兼業)があったり、畑のそばに新住民の家があったりする。

あぜ道の延長のような細道が縦横に張り巡らされている。わが散歩コースにも細道がある。その一角、昔からの家の入り口に、舟形に剪定された庭木が立つ=写真。以前はさして気にも留めなかったが、先日、不意に言葉が思い浮かんだ。これは、「宝船」ではないか。

「宝船」なら、庭木をそのようなかたちにした意味がわかる。樹種はおそらくカイヅカイブキ。宝船が風に帆をはらませ、今にも湊、つまり家へ入ろうとしている。船には七福神が乗り、金銀宝石などの宝物が満載されている――。

そう考えると、楽しい。間違いなく「宝船」だ。その造形に、わが家に富と幸運が舞い込むように、という願いが込められているのだ、きっと――。リアルなご利益思想だが、抽象ではなく個別・具体を生きる庶民にとっては、それも真剣な祈りのかたちなのかもしれない。

木をいじめる――といって、庭木をいじりすぎるのを嫌う庭師もいる。西欧の庭園はとにかく木をいじめてスキッと仕上げる。円錐・円筒・円柱、果ては鳥のかたちまでつくる。「宝船」も相当、木をいじめてそこまでに仕立てあげた。

それはさておき――。私も自分の心の中に「宝船」を招きよせるようにしよう、カネではないなにか別のタカラを積んだ船をと、妄想をふくらませた松の内が終わった。本格的な「原発震災」紀元2年の始まりだ。

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