2012年4月30日月曜日

渓谷の花見客


日曜日(4月29日)朝、2週間ぶりに夏井川渓谷の無量庵へ出かけた。

さきおととし、近所のTさんから30センチほどのモチタラボ(タラノキ)の苗木10本をもらって道路そばの菜園の一角に植えた。おととしは50センチ、去年は人間の背丈ほどに育って新芽を出した。

去年は3・11の直後だ。放射能を恐れて渓谷へ花見に来るような人間はいない。たかをくくっていたら、やられた。今年も背丈の低いタラノキの新芽を採られた=写真

切り口の鋭利さとみずみずしさから、私が無量庵に着いた午前10時半の直前、渓谷へ花見に来た誰かが無量庵へ入り込んで、鎌で切り取ったのだろう。今の時期、山菜採りに精を出す人間は車に鎌を積んでいる。その鎌をどこで使うかは、その人の倫理観による。

4月18日にも書いたが、犯人はだいたい想像がつく。どこかのジイ・バア、なかでもバア・バアだろう。無量庵の東隣は「錦展望台」。古い家と杉林を解体・伐採して、行楽客の休み場にと持ち主が開放した。西隣は東北電力の社宅跡。車を止めてあたりを散策するには好都合な場所だ。無量庵のタラの芽は「棚からぼたもち」、いや「道からタラの芽」。

社宅跡にいわき市が設置したエコトイレがある。が、ジイ・バアはそんなものは使わない。2週間前、あるバアさまが無量庵に入り込んで用を足しているのをカミサンが目撃した。つつましさから遠くなれば、ついでにタラの芽をひょいと採る、なんてこともできるのだろう。「錦展望台」の持ち主は思い余って「トイレは100m先」の看板を立てた。

若者が礼儀知らずだとか、なんとかいうのは一面的なこと。大人の大人である年寄りの方が礼儀知らずの場合もある。始末に負えないのはこちらの方だ。今年、渓谷へ花見に来ているのは、ほとんどがジイ・バア。それで不行跡が推測し得る。

タラの芽から基準を超える放射性セシウムが検出されたために、市が摂取・出荷自粛を市民に要請した。そうした情報を承知のうえで“窃盗”におよんでいるのかどうか。

――ほんとうは渓谷の花見の様子を書きたかった。渓谷の花と言ったら、アカヤシオ(岩ツツジ)だ。真っ先に渓谷に春がきたことを告げる。その花が散ったあと、ヤマザクラが咲き誇り、木々が芽吹いて、山が笑う。初夏の陽気になったきのう、ヤマザクラが満開だった。自然はパステルカラーに染まり、人間を包み込むようにほほえんでいた。

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