2013年1月18日金曜日

最後のダンシャリ


わが家の南隣に義弟の家がある。20年以上も前のことだが、一部屋を借りて書庫にした。東日本大震災から1年10カ月、本は無事か。無事だった。あの大揺れになだれ落ちることもなかった。

「開かずの間」に眠っていた本の“救出”を兼ねて、最後のダンシャリが始まった。カミサンがわが家の縁側に本を積み上げる。それを選り分ける。

なかに、いわきの作家・詩人草野比佐男さん(1927~2005年)の詩集『老年詩片』と『飛沙句集』、高校教諭・詩人吉田真琴さん(1933~87年)の詩集『二重風景』と『薄明地帯からのメッセージ』があった=写真。3・11後、ずっと探していた本だ。一緒に出てきた草野さんの手紙とはがきがそのへんのいきさつを語る。

手紙の消印は昭和61(1986)年3月8日。草野さんは、親戚から借りたワープロをたたいて限定5部の詩集と句集をつくる。「1冊余ったので、さて、どうしようかと考えていたら、なぜかあなたの名前が思い浮かびました」「ワープロの出現は、表現の世界の革命といえるんじゃないか」。今やパソコンがその機能を受け継ぐ。

そして、同年9月2日の消印のあるはがき。「吉田真琴詩集を作りました」「作品に見るべきものがあったら、(略)紹介いただけるとありがたいと思います」。写真に見える『二重風景』のことだ。『薄明地帯のメッセージ』は「二重風景」全編を含む吉田さんの遺稿集で、吉田さんの一周忌を前に、草野さんら友人の手で編集・刊行された。

吉田さんは反原発の立場を貫いた。3・11後、全国紙に紹介された詩がある。その一部。「<真実>はいつも少数派だった/今の私たちのように/しかし原発はいつの日か/必ず人間に牙をむく/この猛獣を/曇りない視線で看視するのが私たちだ/この怪物を絶えず否定するところに/私たちの存在理由がある」(「重い歳月」)

詩はこう続く。「私たちがそれを怠れば/いつか孫たちが問うだろう/『あなたたちの世代は何をしたのですか』と」。孫たちの未来を汚してしまった今、ことここに至るまでの無知・鈍感・安逸を反省するほかない。

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