2013年8月22日木曜日

「みみたす」

7月最後の日曜日(7月28日)、いわき市立草野心平記念文学館を訪ねたときのこと。目当てはむろん、企画展「みんなだいすきアンパンマン やなせたかしの世界展」(9月8日まで)だったが、館の内外でフリーマーケットやライブなどのイベントが行われていた。「ふたつや文学ロック」が開かれている小講堂をのぞくと、何枚かチラシ類を手渡された。

そのなかに、FMいわきの番組表「みみたす」があった=写真。以前の番組表は新聞のラジオ・テレビ欄と同じような印象だった。それが、冊子になっている。「7・8・9月号」とあるから、年4回の発行らしい。小川に焦点を合わせたカバーストーリー「胡瓜(きゅうり)をめぐる冒険」に引かれた。

レポーター・ミミちゃんが小川町を探索中に、ある話を思い出す。「本郷の表(おもて)組の人はキュウリを作れない」「作れないがらってウヂにもらいに来るの。理由は分がらない」。そこからスゴロクよろしく「胡瓜をめぐる冒険」、つまり聞き込みが始まる。

「表」は上小川の字名のひとつ。草野心平生家のある植ノ内とは道路をはさんで向かい合っている。心平が故郷の「上小川村」をうたった詩、<ブリキ屋のとなりは下駄屋。/下駄屋のとなりは……>の世界だ。その通りにある床屋のおばさんからレクチャーを受ける。「表が作れないんじゃなくて草野さんが作れないの」

あちこち転々としながら、キュウリ栽培を禁忌する草野さんの家にたどりつく。草野姓の家が作れないのではなく、「ウヂど、ウヂの分家は作らない」のだそうだ。そのワケは――。

昔、馬車による運送業を営んでいた。明治時代に今の品種のキュウリが入ってきた。栽培して与えると馬が喜んで食べた。ところがその年、多くの馬が死んだ。以後、「キュウリを作るべからず」となったという。食べる分には問題がない。で、「ウヂにもらいに来る」という話になるわけだ。

なるほど。おもしろい「物語」だ。いや、「物語」になるまでよくまとめあげた。足を使えばこういう秀逸な読み物ができる。

あ、それから、表紙の床屋の写真にも引かれた。おばさんが踏み台にのってお客の頭を刈っている。古い、懐かしい、電話のない床屋。心平の詩の世界そのものではないか。

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