2013年9月22日日曜日

アンコールワットの弾痕

1年前、高専の同級生とベトナム・カンボジアを旅した。還暦を記念して始めた“海外修学旅行”の第3弾だ。北欧、台湾と続き、2011年には風評被害に苦しむ観光地会津を訪ねた。この年は、さすがに海外旅行をする気にはなれなかった。

カンボジアでは世界遺産のアンコール遺跡群を見学した。石でできた寺院に深い感銘を受けた。日本語を話す現地人ガイドからアンコール遺跡群の光と影を教えられた。忘れがたい観光旅行になった。

3・11後に知ったことばに「ダークツーリズム」がある。ウィキペディアによれば、災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光のことだ。今思えば、カンボジア旅行には10分の1くらいはその要素が入っていた。

ベトナム戦争後、カンボジアではクメール・ルージュが政権を握った。遺跡を破壊し、人民を虐殺した。内戦では遺跡を城郭代わりに使った。アンコールワットの内部に弾痕が残っている=写真。遺跡の保存修理が行われているとはいえ、改修はまだ十分ではない。

改修が追いつかないのは、内戦があったからだけではない。「アンコール遺跡群は、組織的盗掘と国境を越えた密売ルートによって、日常的に切り崩されている」(報道写真家三留理男『悲しきアンコールワット』=集英新書・2004年刊)。こうした事情も関係しているようだ。

「観光」は中国の古典・易経の「国の光を観る」に由来する。光があれば影がある。ダークツーリズムは、いうならば「国の影を観る」ことだろうか。と、少し能書きを語ったところで、もうひとつの落ち。

9月23日は秋分の日だ。アンコールワットは真西を向いて建てられている。ということは、あした、尖塔の真後ろから朝日が昇り、真ん前の密林のかなたに夕日が沈む。雨季のさなかで青空は望めない。が、もしかしたら光の奇跡が起きるかもしれないぞ――と、今朝、起きぬけに日本の星空を見上げながら思った。

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