2013年11月26日火曜日

小川の「白鳥おじさん」

日曜日(11月24日)の朝8時過ぎ。いわき市小川町の夏井川・三島橋上流左岸に、コハクチョウがひしめいていた。そばを走る国道399号から水面までは、5メートルはあろうか。近くの男性がガードレールのそばから「おはよう、おはよう」とハクチョウたちに大声で呼びかけながら、えさのクズ米をまいていた=写真

路肩に車を止めて写真を撮ったあと、男性と少し話をした。ハクチョウの数はざっと50羽。それにオナガガモ、マガモが交じる。朝晩の2回、彼らにえさをやっているのだという。クズ米はだれかがえさ置場に持ってきてくれる。

以前は右岸でえさを与えていたが、砂にまみれて食べづらそうだったため、左岸擁壁の上からまくようにした。

水の流れは結構速い。川床はコンクリートでできていると思ったら、平らな岩盤だという。ハクチョウたちはそこで必死に水をかきながら、空から降ってきたえさをついばむというわけだ。水中に首を突っ込む個体もいる。ハクチョウが「おはよう、おはよう」に反応して、大きな羽ばたき音を立てながら近寄るさまは壮観だ。

えさ場からすぐ下流に、磐城小川江筋の取水堰(斜め堰)がある。堰で少し流速が落ち、流れが平らかになるためにハクチョウたちが舞い降りるようになったのだろう。食事のとき以外は右岸の浅瀬で羽を休めている。

夏井川は阿武隈高地の最高峰・大滝根山の南面を源流に、南東して、いわき市で太平洋に注ぐ。夏井川渓谷を過ぎると扇状地が広がる。その平野部、平・中平窪に、次いで下流の平・塩~中神谷に、さらに小川・三島にハクチョウが飛来して越冬するようになった。三島で越冬が始まったのは、そう古いことではない。

それぞれの越冬地にえさをやる「白鳥おじさん」がいる。鳥インフルエンザの問題が起きたときには、中平窪でえさやりを中止した。塩~中神谷ではMさんが行政の自粛勧告を蹴って世話を続けている。Mさんは対岸、平・山崎に住む。今シーズン、私は早朝散歩を中止しているので、Mさんとは会っていない。元気だろうか。三島の「白鳥おじさん」については全く知らなかった。

「これからどこへ、セドガロ(背戸峨廊)?」「いえ、夏井川渓谷です」「写真は(撮るなら)午前より(日が差す)午後だね。行ってらっしゃい」。小川の「白鳥おじさん」はなんとも気さくな人だった。

蛇足ながら、「背戸峨廊」の読みは「セトガロウ」でも、「セトガロ」でもない。「セドガロ」だ。小川の夏井川支流に加路(かろ)川がある。ひとつ山を越えたV字谷を江田川が流れる。加路川流域の人々には、裏山の江田川は「背戸(せど)のガロ」(後ろの加路川)だ。「セドガロ」と地元の人が呼び習わしていた川の名に、詩人の草野心平が「背戸峨廊」の字を当てた。

さらにいうと、夏井川渓谷と背戸峨廊はイコールではない。夏井川渓谷は本流、背戸峨廊は支流で、本流に沿ってのびる磐越東線からは見えない。見えない奥に息をのむような景観として存在するからこそ価値がある。

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