2013年11月7日木曜日

イノシシ親子

予感はあった。あったが、あまりにもあっけなく遭遇した。事態の深刻さは予想以上ということだろう。

双葉郡富岡町の夜ノ森地区。知人の運転する車から降りて、サクラ並木で知られる富岡二中前の交差点に立つと、東側の住宅街を貫く道路にイノシシの母子が現れた=写真。その距離ざっと100メートル。母イノシシが人間に気づいて足を止め、こちらをじっと見ている。やがて子イノシシがわき道にそれ、母イノシシも子どもを追って姿を消した。

人間のいない山中では、イノシシは昼も行動する。しかし、自然の営みと人間の暮らしが重なり合う領域では、イノシシは夜行性になる。定期的に出かける夏井川渓谷の小集落がそうだ。

隠れ里のようなV字谷の一角に隠居(無量庵)がある。朝起きると、庭の畑が掘り起こされている。週末に出かけると、途中の土手が穴だらけになっている。森に入ると、黒光りするフンが転がっている――そんな異変に気づかされる。いずれもイノシシの仕業だ。

かつて無量庵に住んでいた画家夫妻は、夕方、家の前の道路でイノシシ親子と遭遇した。崖の中腹にある線路で列車にはねられ、下の道路に落ちてくるイノシシもいる。住民にとっては空から降ってきたごちそうだ。

3・11後はいわき市だけでなく、人の気配が消えた双葉郡、その西に連なる阿武隈高地の山里で、イノシシ被害が報告されるようになった。肉からセシウムが検出され、イノシシを捕るハンターが減った。ハンターが減れば、イノシシは増える。電気柵を張り巡らせた田んぼが増えていることが、それを裏づける。

こうして、目撃談は耳にたこができるほど聞いているのだが、野生のイノシシは生まれてこのかた見たことがない。なのに、旧警戒区域(現居住制限区域)に入ったとたん、平地の住宅街で、犬か猫が歩いてくるような感じでイノシシに出合った。

サクラの名所も、イノシシにとっては“奥山”と同じ環境になってしまった。しかも、いくつものグループが町内にすみついているのだという。黙って周囲を見回すほかなかった。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

イノシシが人間の境界域に入ったということでしょうか?

世代を越えた子供はそれをDNAに引き継ぎ領域とすることで境のバランスが崩れたということでしょうか?

人が住めなくなり街がなくなったこと自体奇異なことですから、野性が切迫してくることも自然なことと受け止めなくてはならないのかと写真から感じました

哀しい光景です