2013年12月2日月曜日

女性写真家

フランスの若い女性写真家Dさんが森を歩きたいというので、きのう(12月1日)、夏井川の渓谷林を案内した=写真(左)。英語も話す。英語に堪能な知人のTさんとお嬢ちゃん、カミサンが同行した。

Dさんと知り合ったのは2012年5月中旬。国際NGOのシャプラニールがイトーヨーカドー平店に開設した、被災者のための交流スペース「ぶらっと」で、だった。理髪師で九州出身の日本人と結婚し、ロンドンに住んでいるという。

いわき市は、3・11の津波で沿岸部が壊滅的な被害を受けた。相双地区などからの原発避難者も2万3000人余(2013年10月1日現在)に及ぶ。その写真取材に取り組んだ。

今年も秋にいわきへやって来た。Tさんの家にホームステイをして、浜通りを主に写真取材を続けた。1カ月に及ぶ取材のしめくくりに、夏井川渓谷の、“隠れ里”のような集落にあるわが隠居(無量庵)を訪ねた。軽乗用車とパトカーの“カーチェイス”が行われた11月17日にも、紅葉を見に渓谷を訪れている。このときは会わずじまいだった。

たった半月で溪谷は様相を変えた。散り残りのカエデの赤、コナラやクヌギの黄土色、赤松・モミの常緑のほかは、すっかり葉を落とした。無量庵の対岸の木々は、午後になると太陽の光が差し込み、幹や枝々が灰色に輝く。もう初冬の装いだ。

吊り橋のそば、林内の小道の入り口に積み上げられた3・11の落石群。どこまでも続く落ち葉のじゅうたん。木守の滝、眼下の渓流、瀬音。Dさんは明るい林内でフィルムカメラのシャッターを押しつづけた。

森から戻ったあと、知り合いの家を訪ねた。夫が入院し、今は一人暮らしのおばさんとは震災後、初めて会った。白菜を持って行け、大根を持って行け――と、わきの斜面にある畑にみんなを連れて行く。畑はトタンで囲われている。イノシシ除けだ。もう一段上の家では、「部分除染」のあとを見た。ここでもDさんは盛んにシャッターを押した。

Dさんは、ドイツ在住の芥川賞作家と写真作品を介してつながった。詩と写真集を出す計画が進んでいるという。その取材のために作家が8月、いわきへやって来た。一夜、Tさんの骨折りで懇親会が開かれた。先日はDさんの夫がいわきを訪ねてきた。やはり、Tさんの骨折りで歓迎会が開かれた。

Dさんの写真は、実はまだ見たことがない。が、芥川賞作家の目に留まり、心を動かしただけのレベルであることは確かだろう。報道写真でありながら、アートの要素も濃い、そんな領域に位置する作品なのかもしれない。

話を聞けば、その取材は庶民の日常がベースになっている。Tさんらのネットワークを生かし、被写体である人々と同じコミュニティーの一員であるかのように、深く入り込んで取材する。突然やって来て、パッパッと撮ってサッと帰っていく「狩猟型」の取材とは、わけが違う。夏井川渓谷でも、家の軒下にほしてある柿と大根にすぐ反応した。

地震と津波。事故を起こした原発のこちら側とあちら側。地理的には浜通り全体を視野に収めた、ユニークな“写真詩集”とでも言ったらいいのか。心の中では、一日も早い刊行を首を長くして待っている。

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