2014年1月19日日曜日

リンカーン岩

 夏井川渓谷では、木々が葉を落としたために見通しがよくなった。岩盤がその一つ。角度によっては生きものの顔に見える岩がある。ライオンか、リンカーンか。意識すればするほどリンカーンの横顔に見えてくる=写真

 3・11に大地が激しく揺れた。溪谷では至る所で落石が起きた。岩盤から岩が剥離すると、岩の内部があらわになる。表面はまだ赤茶色のままだ。それが、風雨にさらされて、やがて白茶ける。“リンカーン岩”にはまだ一部、赤みが残っている。3・11前はもっと単純な別の人間の横顏だった。

 森の中の異変は、緑に覆われているうちはよくわからない。見通しのよくなった冬、尾根から谷へと続く斜面にところどころ岩盤の剥離跡が見られる。3・11の痕跡だ。無人の谷だからニュースにならないだけだが、小さな生態系のなかでみれば、落石が多発したことは“激変”に違いない。

“リンカーン岩”のふもとには、落ちてきた岩盤が細断されて、石垣のように積み上げられた。水力発電所の導水路を点検するための巡視路がある。その通行を確保するための措置だった。

 3・11では渓谷の幹線道路が遮断された。「小野四倉線完全通行止め(高崎踏切より1KM先) 川前方面国道399号迂回路6KM先(母成林道)」などと書かれた看板が道路に立っていた。小野四倉線と並走する磐越東線もしばらく運行が止まった。

1・17、阪神・淡路大震災から19年。東日本大震災のことが反射的に思い出された。渓谷の落石はそのひとコマにすぎない。

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