2014年2月14日金曜日

ベルリンでの詩と写真展

 おととい(2月12日)夕方、ドイツからエアメールが届いた。ん、だれから? 封筒に入っていたのは横長の展覧会案内1枚だった=写真。表裏にドイツ語で何か印刷されている。唯一の英語は「アウト・オブ・サイト」、唯一の日本語は「ベルリン日独センター」だ。

 案内状と同センターのHP(日本語版)からわかったのは、フランス人でロンドンに住む若い女性写真家、デルフィーヌ・パロディ=ナガオカさんが2月18日から3月28日まで、ベルリン在住の芥川賞作家多和田葉子さんと2人展を開く、というものだった。

 デルフィーヌさん、いやデルフィーヌでいこう。彼女とは震災1年後の2012年5月中旬、イトーヨーカドー平店2階にある被災者のための交流スペース「ぶらっと」で出会った。彼女が案内状を送ってきたのだろう。

「ぶらっと」は<シャプラニール=市民による海外協力の会>が開設した。現地採用スタッフ3人のうちの1人、双葉町からいわき市に原発避難をしているRさんに、デルフィーヌが写真家として反応したらしい。Rさんの自宅(アパート)の前で写真を撮りたい、という申し出をRさんが受けた。

「ぶらっと」ボランティアの一人、英語が堪能なTさんがその後の彼女の写真取材を支えた。Tさんを介して、われわれ夫婦も彼女と親しくなっていった。

 彼女がいわきを拠点に被災者・避難者の取材を重ねて1年が経過したころだろうか。作家の多和田さんと、写真と詩のコラボレーションをすることになった、とTさんから聞いた。多和田さん自身も昨年の8月、Tさんの案内でいわき・双葉郡、その他の土地を巡った。Tさんの誘いで多和田さんを囲んで食事をしたこともある。

 雑誌「ミセス」に連載しているエッセー(11月号)で、多和田さんはそのときの印象をこう記した。「あの黒い袋の中の物質は何千年たっても子供たちを癌にするかもしれない。(中略)とんでもないもの、手に負えないものを無責任にこの世に送り出してしまった人間のとりかえしのつかない過ち。福島への旅は、わたしにとっては、これまでで一番悲しい旅だった」

 2人のコラボレーションがベルリンでの詩と写真展「アウト・オブ・サイト」になった。直訳すれば「視野の外」。見えない世界、見えなくなったふるさと、見えない放射能……、そんなことをテーマにしているのだろうと、私は勝手に想像する。

 そうそう、デルフィーヌが「いわきの森林を見たい」というので、晩秋、彼女を夏井川渓谷のわが隠居(無量庵)へ招待したことがある。Tさん母娘と一緒にやって来た。紅葉の渓谷林を案内したときのカメラアングル、シャッターチャンスが、私とまるきり違っていた。さすがは写真家、と感じ入ったものだ。

 デルフィーヌがいわきと双葉郡の人と自然を写真でどう表現しているのか。多和田さんがそれに対してどう詩で交感しているのか。

ベルリンがいわき市の隣まちだったら、毎日でも展覧会場へ出かけるのだが、それはかなわない。ならば、いわきで同じ展覧会を――。そう念じつつ、18日からの展覧会の成功を、極東の片隅から祈ることにしよう。

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