2014年2月27日木曜日

内緒の選択

 交流スペース「ぶらっと」=イトーヨーカドー平店2階=で知り合った木村孝夫さんから、詩集『ふくしまという名の舟にのって』(竹林館、2013年12月刊)=写真=をちょうだいした。

 あとがきに「奉仕活動を通して傾聴した被災者の方々の気持ちや、毎日のようにニュースになっている原発事故の収束状況などを下地として、作品を書き上げている。今も原発周辺はそのままだ。汚染水問題もあって刻々と状況が変化している。作品はその状況の変化を、心の状況と照らし合わせながら書いている」とある。

 いわき市をハマ・マチ・ヤマで分けると、木村さんはマチの住人だ。東日本大震災と原発事故で「3日ほど避難生活と半月の水道供給停止を経験しただけで、二つの災害の影響をほとんど受けることがなかった。だから、今何かをしなければという思いが強い」。それが、詩でこの災禍を記録することだった。地震・津波の被災者や原発避難者の言葉に耳を傾け、胸の内を推し量る。

 <選択>の前半部はこうだ。「一年が過ぎると/老いの深まりが強くなった/三年目に入ると/新聞のおくやみ情報に古里の住所が載り始めた/仮設住宅の生活が長くなって/心の痛みが 切ないね/と 呟く日が増えてきた//もうここまでと/線引きし/戻らないと決めた日には/夜遅くまで泣いた」
 
 原発事故でふるさとを追われ、いわきで応急仮設住宅に住む人の気持ちを詠んだ。最後の4行、「心の中で壊れていくものが渦巻いている/選択とは/葛藤を切り刻んでできあがる/切ないものなのだ」が胸に突き刺さる。
 
 <内緒>に選択の一つが描かれる。「内緒ですよ/と 耳もとで囁く/いわき市に家を買いました/同郷の人には/まだ内緒ですが/いわき市民になりました//仮設住宅の生活に疲れ/ストレスで亡くなる方もいて/私も主人も病院通いの日々です/狭い部屋の中では/新鮮な呼吸をすることもできずに/肺も体も/だいぶ小さくなりました」
 
 次の連。「古里を見捨てたようで/心苦しいのですが/新しい住所を泣き泣き買いました/老後のすべてが/吹き飛んだ日のことを忘れない/という条件付で//契約書に/新たな条件を添え書きしたとき/主人の手が震えていました/重いものなのです/新しい場所で新しい生活を始めることは/それでも選択しました」
 
 同じような選択をして東京に家を求め、借り上げ住宅から間もなく引っ越す人がいる。移住を同郷の「友達にもいわないの」という。いわきに避難しても、市民とは没交渉の日々。まるで最初からそこに存在しなかったかのように、ひっそりといわきから姿を消す。

 原発事故はコミュニティを破壊し、家族を分断し、友愛を切り刻む。<ふくしまという名の舟>にのっているのは、放射能という悪霊に苦しみ、翻弄されている人々の魂だ。

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