2014年3月23日日曜日

常磐の温泉旅館へ

 その温泉旅館を訪ねるのは震災後初めてだった。いわき地域学會初代代表幹事、いわき商工会議所副会頭、いわき観光物産協会長、福島県教育委員長、元県立高校教諭、山村暮鳥・野口雨情研究家、野口雨情記念湯本温泉童謡館初代館長、……。故里見庫男さんは地域文化のプロデューサー兼コーディネーター・編集者、そしてなによりもまず、いわき湯本温泉旅館・古滝屋の経営者だった。

 里見さんは2009年3月26日、転勤族と地元の人間との「人脈形成の場」である月例の集まり「江戸十番会」(3月は送別会を兼ねた拡大交流会)の場で倒れ、11日後の4月6日に亡くなった。古滝屋内の飲み食い処「江戸十番」にちなむ集まりで、毎月、里見さんからファクスで案内が届いた。
 
 里見さんが亡くなったあとの一周忌で古滝屋を訪ねたのが最後だったと思う。3・11と1カ月後の4・11(巨大余震)で常磐地区は大きな打撃を受けた。震災から1年4カ月後の2012年7月、古滝屋は素泊まり型に切り替えて営業を再開した。江戸十番会が“休眠”してからは、たまに旅館の前を車で通る程度になった。
 
 4年ぶりに古滝屋へ出かけたのには、もちろんわけがある。イトーヨーカドー平店で被災者のための交流スペース「ぶらっと」を運営しているNGOのシャプラニールが3月21~22日、4回目の「みんなでいわき!」被災地訪問ツアーを実施した。首都圏を中心に西は兵庫県、北は宮城県から26人が参加した。宿は古滝屋。初日の夕食・懇親会に夫婦で合流した。
 
 フロントに「若だんな」がいた。顔を見て安心した。教えられた会場は8階の中宴会場。江戸十番会は2階の飲み食い処「江戸十番」から、しばしば場所をこの中宴会場に移して行われた。懐かしかった。

 外注した料理と飲み物をシャプラのスタッフと一緒にセットしながら=写真、少しセンチな気分になっているのがわかった。<ここでいろんな人と議論したっけ>。懇親会が始まり、話がはずむにつれて、どこかそのへんに里見さんがいるような気がしてきた。酔いによる幸福な錯覚だった。

0 件のコメント: