2014年3月25日火曜日

松に青鷺

「松に鶴」と言えば、花札の1月の図柄だ。2月は「梅に鶯」、3月は「桜に幕」、4月は「菖蒲(あやめ)に八橋」、……。詩人の大岡信さんによれば、この取り合わせは和歌に発し、近世の花鳥画などで広く画材として愛用され、ついには花札にも及んだ。日本人の美意識を支えているのは、こうした様式好み、型好みだという。

 本のタイトルは忘れたが、若いときに読んで以来、日本人の「美意識における理想主義」と「現実」の落差を楽しんできた。

 隠居(無量庵)のある夏井川渓谷に、ときどき青鷺(あおさぎ)が現れる。たまに赤松やモミの木に止まって一休みする。「鶴だ!」。10年以上も前、青鷺と鶴の区別がつかなかったカミサンが目を輝かせた。画集その他で「美意識における理想主義」にどっぷりつかっていたから、「松に大きな鳥」とくれば「鶴」となったのだろう。
 
 浜で生まれ育った人間が2人、無量庵で工事をした。リズミカルな潮騒と違って、早瀬の音が途切れなく続く。音の話になったので、山で生まれ育った人間が少年のころ、海辺の家に泊まったときの体験を話した。「潮騒で眠れなかった。海の人間は逆に、早瀬の音で眠れないだろうな」
 
 そのとき、青鷺が対岸のモミの木の枝に来て止まった。なんでこんな渓谷に?と海の人間は不思議がった。「近くにヤマメとイワナ、ニジマスの釣堀があるから」
 
 それから2日後の夜、BSジャパンで「開運!なんでも鑑定団」を見ていたら、江戸時代の日本人画家諸葛監(1717~90年)の「松に鶴」の掛け軸が鑑定にかけられた。ご丁寧にも滝を背景にした渓谷だ、松の太い枝(幹?)に丹頂がつがいで描かれている=写真。鑑定額は160万円だった。日本人の美意識が生んだ「松に鶴」の傑作ということになるのだろう。

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