2014年4月15日火曜日

カネはもらえません

 今夜は絶対、刺し身――。日曜日の夜は「刺し身で一杯」と決めているのだが、用事があって2週続けて口にしなかった。

 4月13日、夏井川渓谷の小集落・牛小川で「春日様」の祭りが行われた。週末だけ隠居(無量庵)で過ごす“半住民”の私にも連絡がきて、祭りに参加した。谷間のアカヤシオ(イワツツジ)が満開だった。参拝後のなおらいは、昼には終わった。
 
 午後からいわきに住む中学校の同級生や、津波被害に遭ったハマの友人、内陸部に住む疑似孫とその両親が、アカヤシオの花見にやって来た。夕方、山峡の隠居を離れ、魚屋さんへ直行した。
 
 刺し身はカツオに限る。阿武隈の山中で生まれ育った人間がいわきに移り住み、カツ刺しのうまさを発見して根を生やした。オフシーズンは刺し身なしでもかまわない。そう決めて、冬は魚屋さん通いを中断していた。
 
 冬には冬の刺し身がある、と知ったのは3・11後だ。いわきの海の北方に事故をおこした福島第一原発がある。新鮮な近海魚が揚がらなくなった。でも、刺し身好きのいわき市民のために、よそからいろんな魚が入ってくる。
 
 サンマはもちろん、ヒラメ、タイ、タコ、イカのほか、ホウボウ、メバチマグロ、ブリ。震災後はかえって1年をとおして通うようになった。
 
 大型魚、あるいは大量捕獲魚が中心のスーパーでは、ホウボウのような小さな魚の刺し身は、効率が悪すぎて出せないのだろう。まず見たことがない。それを行きつけの魚屋さんは、入荷すれば教えて刺し身にしてくれる。アラ汁がまた上品でうまい。
 
 で、冬場は「なにがあるの?」が、あいさつ代わりになった。おとといは「カツオが……」と言ったようだった。まさかカツオがあるとは思っていないから、「盛り合わせで」というと、やはりカツオだった。
 
 そこからが面白かった。若だんなの歯切れが悪い。九州から空輸されてきた大型カツオである。「きのう(土曜日=4月12日)は胸を張って売れたのに、きょう見ると悪くなってたんです……」「新鮮だから生臭くはないし、食べられるんですが……」
 
 私にとっては今年の「初ガツオ」だ。とにかく食べたい、となって、つくってもらったら、「カネはもらえません」。ならば――と、カミサンが「復興わかめ」とこんにゃくを買った。こちらの値段は500円にもならないだろう。

 帰宅してすぐ、「笑点」を見ながら晩酌を始め、カツ刺し=写真=をつついた。「カネはもらえません」という理由がわかった。南のカツオだから脂は少ない。それは当然だが、身がぼそぼそしている。なんといったらいいのだろう。「ほどよい味の死」をとっくに過ぎている。ハシでつまむと、身が切れるものもあった。
 
 その魚屋さんへ通い続けて30年余。先代から若だんなへと、地域で生きる魚屋の良心が引き継がれていることを再確認するような“事件”ではあった。

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