2014年4月16日水曜日

“シダレアカヤシオ”

 夏井川渓谷の春告げ花はアカヤシオ(イワツツジ)。まだ木の芽がふかないうちに、V字谷がピンク色に染まる。これはもう「神様の点描画」というほかない。

 日曜日(4月13日)、その花に合わせて、溪谷の小集落でささやかな春祭りが行われた。斜面に張りつく家々の裏山に「春日神社」が鎮座する。そこへ詣でるほんの少し前、集落に住むKさんが「『天狗の重ね石』に行ったかい?」と聞く。「行ってない」というと、「そこのアカヤシオを見に行こう」。Kさんが車を出した。

「天狗の重ね石」は、集落の一角で本流の夏井川に合流する支流の中川沿いにある。中川の水源は神楽山(808メートル)。谷をうがって流れてきた中川は、「天狗の重ね石」で鋭く屈曲する。水のヘアピンカーブだ。

「重ね石」を正面から見ると、巨艦のへさきのようにとがっている。側面は何段も岩を重ねたように、横に筋が入っている。まさに人知を超えた「天狗の所業」だが、私には全体がゴリラの横顔のように見える。

 急流の右岸、「スーパー林道」(広域基幹林道上高部線)に立てば、アカヤシオはすぐわきの対岸、人間の目と同じ高さにある。そこに1本、「天狗の重ね石」の近くに、びっしり花をつけたアカヤシオがある=写真。Kさんはそれを見せたかったのだ。花が多すぎて、重くて枝が垂れている。「“シダレアカヤシオ”だね」。私が言うと、Kさんがうなずいた。

“シダレアカヤシオ”を見て帰りかけたら、三脚をかついだアマチュアカメラマンが歩いてやって来た。Kさんが車を止め、助手席越しに話を始める。撮影ポイントはどこがいいとか、撮影木はどれがいいとか言っている。カメラマンも先刻承知のようだった。

 再び車が動き出してから聞いた。「知ってる人?」「知らない」「ええッ!」。そうか、私を案内したのも、車を止めてカメラマンに情報を伝えたのも、狙いはひとつ。自分の住む集落の、自然の美しさを知ってほしい、きれいに撮ってほしい、伝えてほしい――それだったのだ。

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