2014年4月21日月曜日

西行の桜

 いわき市小川町の扇状地、夏井川右岸の県道を山に向かって進んでいたときのこと。いつもの左岸の県道より二ツ箭山が大きく、広く見えてきた。中腹まで山桜が咲き競っている。遠目にもそれがわかる。

 西行の桜――ということばが思い浮かんだ。800年以上前に西行が見たのも、こんな天然の美だったのだ。

 きのう(4月20日)朝、夏井川渓谷へ出かけた。アカヤシオ(イワツツジ)は散らずに残っていた。1週間前に比べると、山桜の花が咲きだし、木の芽も吹きはじめている。間もなく山峡は赤ちゃんの産毛のような、淡いパステルカラーに染まる。山峡もまた、1年のうちでもっとも心躍る時期を迎えた。
 
 午後はいわき市立草野心平記念文学館で、土曜日(4月19日)に始まった企画展「草野心平の詩 富士山編」を見た。その前に、文学館の上手にある小玉ダムへ足をのばした。夏井川を軸にして見ると、二ツ箭山は左岸にそびえ、文学館は右岸の丘陵に立つ。

 土地の人に、小玉ダムの桜も見事だと教えられて以来、新年度最初の企画展とセットでダム湖の山桜を見に行く=写真。私のなかでは、ダム湖の山々は「いわきの吉野」だ。近代のソメイヨシノではなく、古代から、いやそのずっと前からある山桜の点描画に、西行でなくとも心を奪われる。
 
 人間の社会と違って、天然の造形にははやりすたりがない。いのちを更新しながら自分の居場所を定め、周囲の木々や草花、動物、鳥類などとつながりあって生きている。そのことを、一瞬の花が教えてくれる。共生の安定感、多様性、……。そういったものも自然の美を裏打ちしているのだろう。

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