2014年5月28日水曜日

夏のカモ

 20代半ばまで、鳥といえばスズメ・ツバメ・カラス、声のウグイス・カッコウ・ホトトギスくらいしか知らなかった。そのころ、農家が青田を荒らすカモに困っている――県紙の社会面トップにカルガモの記事が載った。それを今も記憶しているのは、同業他社氏によるいわき発のニュースだったからかもしれない。
 
 この新聞記事がきっかけになったわけではないが、子どもが生まれるころ、いわきの自然を丸かじりしようと決めた。人間については、いやでも仕事のなかで知ることになる。自然については注意して見聞きしないとわからない。以来40年近く、いわきの海・山・川、鳥・花・キノコと向き合っている。鉱物や化石、昆虫などは、それを専門に研究している知人に聞けばいい。
 
 カモは冬鳥、夏にカモがいるはずがない――そんな皮相で、狭い知識しか持ちあわせていなかった20代の人間の蒙(もう)を、カルガモが啓(ひら)いた。別名、夏ガモ。水稲の苗を踏みつける、倒す、苗のもみ部を食害する。農家にとっては厄介な留鳥だ。
 
 そのカモを10メートルほどの距離から撮影した=写真。日曜日(5月25日)早朝、夏井川渓谷の隠居(無量庵)へと、平地の田んぼ道を進んでいた。すると、右側の青田にカルガモ、左側の青田にコサギがいた。車中からそっと、望遠で右を狙い、左を狙った。

 6月に入ると、市街地でカルガモが営巣し、水辺へと親子で道路を横断する写真・動画がメディアに登場する。水田のない街なかでは愛らしいニュースだが、水田の広がる郊外では……。
 
「稲の苗を倒すなよ」と念じながら撮った写真を拡大すると、目に光が当たっていた。漫画の少女の目と同じで、ピントが合って生きた目になっていた。それもよかったが、なにより水面の“さかさガモ”に引かれた。たまにはこんな写真も撮れる。早起きしたからこその三文の得(徳)、というやつだろう。

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