2014年6月26日木曜日

二十日大根から始める⑦

 二十日大根とコカブを収穫する。肥大して球状になった根には泥が付いている。泥付きのままもいいが、その場できれいにした方が、あとでサラダや糠漬けにするのに簡単でいい。

 夏井川渓谷の隠居(無量庵)でのこと。道路向かいに小流れ(沢)がある。とりたて・泥付きの二十日大根とコカブを水につけてきれいにした=写真。虫に食われてボロボロになった葉や、黄ばんだ葉も落とした。

 長靴で小流れに入り、かがんでゴシゴシやっていると――。阿武隈高地の、鎌倉岳南東麓にあった「ばっぱの家」が思い浮かんだ。今は田村市都路町だが、元は都路村岩井沢字北作。

 かやぶきの一軒家で、夜はいろりのそばにランプが吊るされた。食事は銘々膳、つまりそれぞれが自分のお膳を用意して食べた。寝るときには、枕元にあんどんがともされた。

 家から少し離れたところに直径5メートルほどの池があった。V字形の木の樋から沢水がとぎれることなく池に注いでいた。その樋から飲料水を、池から風呂水をくんだ。オーバーフローをした水は、池のそばの雑木群の間を縫って流れる。その小流れで笹船を流して遊んだ。

 今は家も、池もない。敷地全体が杉林に変わった。去年(2013年)5月、震災後に初めて訪れると、近所の家で除染作業が行われていた。杉林のそばに土砂や砕石を詰めた黒いフレコンバッグが仮置きされていた。福島第一原発からは真西の30キロ圏内だ。
 
 現実の山野ばかりか、少年時代の記憶も汚染された。阿武隈受難――小流れにそんな言葉が浮かびあがってきそうだった。

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