2014年6月30日月曜日

潮騒と瀬音

 わが家から小名浜へ行くには、主に沿岸部の県道小名浜四倉線を利用する。津波被害に遭った沼ノ内、薄磯、豊間、永崎地区などを通る。

 県道沿いに沼ノ内の災害公営住宅が建った。豊間の災害公営住宅も1棟が完成し、さらに別棟の建設が進められている=写真。薄磯の住宅は県道から海岸寄りの山あいにできる。
 
 この3地区の災害公営住宅では、完成棟から被災者の入居が始まった。「潮騒を聞いてホッとした」という入居者の話が伝わってきた。
 
 大津波に襲われる前は、いつも暮らしのなかに潮騒が響いていた。寄せては返す波のリズムが体に刻まれていた。3・11後は、内陸部での避難生活を余儀なくされた。潮騒が聞こえなくなった。何か気の抜けたような暮らしだったのだろう。
 
 きのう(6月29日)の夏井川渓谷は、雨で流れが増水し、堰(せき)をオーバーしながら、「ドドドド」と大きな瀬音を散らしていた。
 
 潮騒を子守唄代わりに聞いて育った豊間の人間が2人、春に夏井川渓谷のわが隠居(無量庵)で仕事をした。潮騒とちがって、早瀬の音が途切れなく続く。仕事をしていて落ち着かなかったという。ふだんの何倍も大きな瀬音を聞きながら、その話を思い出した。
 
 海の人間とは逆のケースもある。山国で生まれ育った人間が、潮騒の聞こえる海辺の家に泊まった。潮騒が耳にさわって眠られたものではなかった。10代後半のときの経験だ。
 
 人はそれぞれの環境になじんで生きていく。環境と内面は分かちがたく結ばれている。潮騒と瀬音にもそのことが言える。

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