2014年10月30日木曜日

福島県文学賞

 10月27日、いわき市の吉野せい賞、福島県の文学賞が発表された。せい賞の選考結果について、市教育長、吉野せい賞運営委員会委員長とともに市役所の記者クラブに出向いて話した。県文学賞は県と共催新聞社・福島民報の28日付1面で知った=写真。

 せい賞の記事は同じ日の同紙の5面に載った。県紙からすれば、県内の1自治体の文学賞にすぎない、ニュース価値は県文学賞より低い、という判断だ。同じ日の発表になったために、よけい扱いの違いが際立った。

 それはさておき、県文学賞の<小説・ドラマ>部門正賞を畏友の夏井芳徳さんが、<詩>部門正賞を知人の木村孝夫さんが受賞した。知り合い2人の同時受章に、<おおっ>となった。朝7時には夏井さんに電話をかけた。8時にはカミサンが木村さんに電話をした。夏井さんは初の応募、木村さんは準賞受賞から25年たっての正賞だ。
 
 夏井さんの小説は「石熊村キツネ裁判―『三川タイムス』取材ノート」で、「キツネに化かされた被害者を救済するための裁判がある、というユニークな発想の娯楽小説で、文章力、構成力があり完成度が高いと評価された」。
 
 木村さんの詩作品は「ふくしまという名の舟にゆられて」13編で、「東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後の現況を多面的に表現した。完成度や作品の質において正賞にふさわしいと推された」。
 
 夏井さんはいわき地方のじゃんがら念仏踊りや獅子舞など、民俗学的な分野での調査・研究を続けている。若いときには小説の単行本を出したこともある。それで、本領は創作、と私はずっと思ってきた。ユニークな視点から話を組み立てて人をけむに巻いたり、笑わせたりするふだんの会話からも、それは察せられる。いよいよエンジンがかかってきたか、というのが実感だ。
 
 木村さんとは震災後、国際NGOのシャプラニールがいわきで運営する交流スペース「ぶらっと」で知り合った。「ぶらっと」の利用者であり、支援者であり、シャプラニールを支える“同志”でもある。
 
 昨年暮れ、詩集『ふくしまという名の舟にのって』(竹林館)を刊行した。あとがきに「奉仕活動を通して傾聴した被災者の方々の気持ちや、毎日のようにニュースになっている原発事故の収束状況などを下地として、作品を書き上げている」とある。受賞作品の「ふくしまという名の舟にゆられて」は、その延長線上にあるものだろう。

 キリがない。「キツネ裁判」のからみでいえば、哲学者内山節さんの『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)は、夏井さんの愛読書のひとつではなかったか。そういうことも含めて、書こうと思えばいくらでも書ける。ひとまずきょうはこのへんでやめよう。
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 深夜、内山さんのキツネの本を引っ張り出したら、中からいわき地域学會の平成20(2008)年2月のはがきが出てきた。

 市民講座の案内で、第238回は夏井さんが「狐に化かされた話『石城北神谷誌』より」というテーマで話している。「人間が狐に化かされた話を取り上げ、昔の人たちと狐の関係などについて考えてみたいと思います」とあった。ずっとキツネがとりついていた、いやキツネのことを考えていたのだろう。

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