2015年1月9日金曜日

冷蔵庫の後ろのいきもの

 夏井川渓谷の隠居(無量庵)はふだん、人の気配が消えた物置と変わらない。動いているのは冷蔵庫だけ=写真。

 現役のころは毎週末、泊まって土いじりをしたり、森を巡ったりした。1泊2日を毎週続けると年に100日余、ざっと3分の1は渓谷で過ごしたことになる。自由時間を手に入れてからは、逆に行く回数が減った。泊まることもほとんどなくなった。雨戸を開けて光と風を入れるのは年に40日ほどだろうか。

 家のあるじが小さな生きものに取って代わられたのではないか――このごろ、そんな気がしてならない。仕事をしていたころ、土曜日の夜に茶の間でひとり酒を飲んでいると、すみっこにノネズミが現れることがあった。家のところどころに黒いゴマのようなものが落ちている。特に、最近は台所でそれが目立つ。ノネズミのフンだ。

 玄関の上がり框(かまち)の下、床下との仕切り板に穴が開いている。障子と柱の間にはすき間ができている。台所には換気扇がある。開け閉めをほとんどしない障子やガラス戸のすみっこは、テントウムシとカメムシの集団越冬スポット。それはわかっているのだが、ノネズミにとっても出入りしやすいガタピシの構造になっているのはまちがいない。

 昨秋、朝早く隠居へ出かけ、台所で朝食をとっていると、足元をノネズミが横切って行った。おやおや、台所から野っ原へ朝帰りかい――そう思ったものだが、どうやらすみついているらしい。年明けの3日朝、カミサンが台所で金切り声をあげた。「冷蔵庫の後ろにネズミがいる!」

「冷蔵庫・ネズミ」の言葉を聞いて、とっさに「自販機・サーファー」を思い出した。サーファーは冬、波乗りをして体がこごえると、海のそばにある自販機に抱きつく、のだそうだ。自販機の排熱が体を温める。それと同じで、冷蔵庫の排熱がノネズミを引き寄せたのだろうか。だとしたら、ノネズミが冷蔵庫の方からやって来て足元を駆け抜けていった理由がつく。

 そういえば、おととし(2013年)の秋、玄関のたたきにアオダイショウの抜け殻が落ちていた。ヘビはネズミの天敵。ノネズミがいる以上、アオダイショウがいても不思議ではないが、脱皮の場所にするまで人の気配が消えていたということだろう。ヘビもノネズミも嫌いな人がいる以上はしかたがない。冷蔵庫の周りに薬剤を買ってきて置いた。

0 件のコメント: