2015年6月18日木曜日

ガリ版刷り詩集『秋の通信』

「日本古書通信」で廣畑研二さんという人の連載<幻の詩誌 『南方詩人』目次細目>が始まった。たまたま日本古書通信社の編集者から5、6月号が送られてきて、興味深く読んだ。『南方詩人』は昭和初期、鹿児島で発行された詩誌で、廣畑さんが全10輯(しゅう)の目次細目を作成した。5月号から順を追って紹介している。
 第9輯は猪狩満直(1898~1938年)の詩集『移住民』記念号、第10輯は黄瀛(こうえい=1906~2005年)の詩集『景星』記念号だそうだ。満直はいわき市生まれ、黄瀛は日本人の血を引く中国人で、ともに草野心平とは無二の親友だった。

 満直の名前に出くわしたとき、先日、手にした詩集『秋の通信』が頭をよぎった。ネット古書店を営む若い仲間が、市内から出てきた、といって、満直36歳のときの詩集を持ってきた。

 山村暮鳥の詩「友らをおもふ」が載った、大正13(1924)年1月15日発行の磐城平の同人誌「みみづく」を発掘したのも彼だ。「みみづく」と同じように、震災のダンシャリで出てきたのだろうか。

『秋の通信』は『猪狩満直全集』(猪狩満直全集刊行委員会、1986年)に収録されている=写真。それによると、昭和9(1934)年2月1日、北緯五十度社から刊行された。大きさは縦16.8センチ、横12.5センチ。新書をやや横長にした感じ。表紙以外はガリ版印刷だ。発行者は日本の近代詩史に欠かせない更科源蔵、同じく印刷者は真壁仁で、ともに跋文(あとがき)も書いている。

 大正13年の「みみづく」は 群馬県立土屋文明記念文学館が昨年開催した、暮鳥生誕130年を記念する企画展「山村暮鳥―そして『雲』が生まれた―」に展示された。そのあと、しばらく私が預かっていたが、今は草野心平記念文学館に収蔵されているらしい。

「みみづく」のときと違って、『秋の通信』は見せただけで持ち帰った。81年前の、しかもガリ版刷り詩集である。稀覯(きこう))本である。後日、彼が来ていうには、古書市場ではけっこうな値段で取引される物件らしい。しかも、思っていたよりゼロが一つ多い。まさに掘り出し物だ。文学館もこれではなかなか手が出ないだろう。といって、市外流出だけは避けたい。

『秋の通信』を出したとき、満直は内郷の小島に住んでいた。以後、長野へ働きに出かけ、実家へ戻って義父と和解し、40歳で亡くなるまで、詩らしい詩は書いていない。「(行き先が)決まるまで神谷(かべや)に預けるかな」「おー、持って来い」。じっくり調べる楽しみができたものの、現物はまだ届かない。

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