2016年5月17日火曜日

ゴボウの立体栽培

 交差点で信号待ちをしながら振り返ると、少し遅れて歩いて来たはずのカミサンの姿がない。側溝に足がはまって、けがでもして歩けなくなっているのではないか。あわてて引き返すと、そばの家の菜園でキヌサヤエンドウを摘んでいた。
 通りすがり、見知らぬ家の庭に人がいる。目が合えば、軽く会釈して通り過ぎる。カミサンはときどき声をかける。「花がきれいですね」「それは何ですか」などと言って。今度も「おはようございます、いろいろ栽培してるんですね」。そんな感じで会話が始まったのだろう。

 塀の内側から人の声が聞こえる。出入り口に立つと、ご主人が「お父さんも入って、採って」。ン! ワケも分からぬまま庭に入る。ご主人がシュンギクを摘んで私に渡す。「持っていけ」ということだ。そのあと、言われるままにはさみでキヌサヤを摘んだ。

 その家は、この1、2年の間にできた。いわき市に新しい家を建てるのはかなりの割合で原発避難者だろう。その家も、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。どちらであれ、そこで生きていくことを決めて移り住んだのだ。「どこから来たのですか」なんて立ち入ったことは聞かない。

 それより、キヌサヤのそばにある変なものが気になった=写真。ゴボウの立体栽培だという。大きな肥料(油かす)の袋に培土を入れ、支柱を差して倒れないようにしている。「土を掘って栽培するより楽だから」。たしかにそうだ。庭の菜園では、「深掘り」より「かさ上げ」の方がやりやすい。ベランダ栽培の延長だろう。

 昔、夏井川渓谷の隠居で家庭菜園を始めたころ、掘ってもほっても石が出てきてうんざりした。旧友がやって来て「土を盛ればいいんだよ」と言った。掘るより盛る、地中より地上でつくる――そんなやり方もあることを知った。

 家庭菜園も工夫次第。とはいえ、まだ小さなゴボウの葉たちはこれからフキの葉みたいに大きくなる。狭い土俵のなかで押し合いへし合いが始まる。ゴボウの身になれば大変だな、これも。

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