2016年5月29日日曜日

那須の「ハルゼミ」

 一泊二日(5月27~28日)の日程で、栃木県・那須高原の温泉宿でミニ同級会が開かれた。宿へ着く前に「八幡のツツジ群落」を見た。翌朝は宿を出たあと、ゴンドラを利用して山頂(標高1400メートルだとか)のゴヨウツツジ(シロヤシオ)群生地を巡った。山の名前はなんというのだろう。
 八幡のツツジ群落は、「殺生石(せっしょうせき)」を左に見て、さらに長さ130メートル、谷からの高さ38メートルの「つつじ吊橋」を渡った対岸の山にある。吊り橋を渡る前、近くの那須湯本温泉街ですでに「蝉時雨」が始まっていた(吊橋は揺れて目が回りそうになった、風景を楽しむ余裕はなかった)。
 
 林内の遊歩道に入ると、いちだんとセミの鳴き声が大きくなった。四方八方から押し寄せる。1人が遊歩道に横たわっている体長3センチ余のセミを見つけた=写真。あとでネットで調べたら、エゾハルゼミの雄らしかった。「らしかった」というのは、鳴き声は聞いても実物を見たことがなかったからだ(以下、エゾハルゼミを前提に記す)。
 
 エゾハルゼミとシロヤシオと――。夏井川渓谷にもシロヤシオは群生している。例年、新緑に染まるゴールデンウイークのころに開花する。今年(2016年)は見事だった。暖冬のせいか、4月下旬には咲きだした。エゾハルゼミも今ごろ、隠居の対岸で「―キン、―キン」と鳴いている。
 
 その鳴き声に対する仲間の反応が面白かった。「カエルじゃないの?」。カエルならヤマアカガエルだが、そうではない。セミだ。時期的にはハルゼミかエゾハルゼミ。ハルゼミは主に松林に生息するという。那須高原のそこはブナやミズナラが生えた落葉広葉樹林だ。それもエゾハルゼミと推定できる状況証拠になる。

 ほかの仲間も「今ごろなく鳴くセミがいるんだ」と驚いていた。この20年余、毎週末、夏井川渓谷の隠居へ通って知った自然の不思議。那須高原は夏井川渓谷だ――というと語弊があるが、要は「水平分布」と「垂直分布」の違いだ。標高の高い那須高原の植生と、那須高原よりは北に位置する夏井川渓谷の植生が同じ、すると昆虫も同じ、という理屈になる。
 
 ゴンドラで着いた山頂部では、シロヤシオが満開だった。阿武隈高地の主峰・大滝根山(1193メートル)の北西の山頂部にもシロヤシオが群生する。それを思い出した。劇作家の故田中澄江さんが『花の百名山』で、大滝根山の花として紹介していたもので、今ごろがちょうど開花期だ。樹下ではアズマシャクナゲの花も咲いていることだろう。
 
 そうそう、駐車場からゴンドラの乗り場へ向かうとき、山上からカッコウの鳴き声が降りてきた。5年ぶりに聞いた。それだけでも那須高原へ行ったかいがある、というものだ。

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