2016年7月8日金曜日

植物的な悪口

 いわき駅前再開発ビル「ラトブ」へはよく行く。“在宅ワーク”の今は、調べたいことがあると図書館のホームページを開いて本を探し、時間があればすぐラトブの総合図書館へ車を走らせる。ときどき、カミサンも便乗する。
 図書館では本の貸し出しのほかに、市民から寄贈された本や古くなった蔵書・雑誌のリサイクルを行っている。先日は、カミサンが雑誌「ミセス」2014年2月号を持ち帰った。巻頭にベルリン在住の芥川賞作家多和田葉子さんの連載エッセー「言葉と言葉の間で」が載る。11回目の同号は「野菜の悪口」がタイトルだった=写真。

 ドイツと日本の悪口の違いについて書いている。「ドイツ語の場合、人の悪口を言う時に『あの山羊女』とか『あいつは本当に牛だ』とか『豚的な悪事』などと食用になる動物を引き合いに出す。一方、日本語の場合、『あの娘は芋だ』とか『このボケ茄子』とか「大根役者」といった具合に野菜が登場する。草食系の言語なのかもしれない」。さすがは詩人・作家らしい切り口だ。

 震災後、フランス人写真家デルフィーヌと知り合った。彼女はいわきを拠点に、津波被災者・原発避難者の取材を重ね、2014年2~3月、多和田さんとベルリンで2人展を開いた。多和田さんは詩を発表した。多和田さん自身も2013年8月、いわき・双葉郡、その他の土地を巡っている。今年は春、京都で同じ展覧会が開かれた。この間、多和田さんとも2回、いわきでお会いした。

 同じ連載のなかで、多和田さんは福島の旅について書いている。「あの黒い袋の中の物質は何千年たっても子供たちを癌にするかもしれない。(中略)とんでもないもの、手に負えないものを無責任にこの世に送り出してしまった人間のとりかえしのつかない過ち。福島への旅は、わたしにとっては、これまでで一番悲しい旅だった」(2013年11月号)

 おっと、前置きが長くなった。「野菜の悪口」に刺激されて、ほかの悪口を探ると、「おたんこ茄子」「土手南瓜」「青瓢箪」「末成り(うらなり)」「独活(うど)の大木」「大根足」「牛蒡(ごぼう)」……。やはり植物的な悪口が思い浮かんだ。
 
 しかし、「動物の悪口」もないわけではない。「猫かぶり」「負け犬」。池波正太郎の『鬼平犯科帳』には「阿呆鴉(あほうがらす)」が出てくる。悪口ではないが、「鼠小僧」もいた。
 
 多和田さんはエッセーをピーマンで締めくくった。「『あの人っていつも話がピーマン』とは言われたくないものだ」。芥川賞作家がそうなら、こちらは「頭がピーマン」といわれてもしかたがない。

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