2017年8月10日木曜日

キュウリの古漬け

 原発震災から間もなく6年5カ月。夏井川渓谷にある隠居に限っていえば、庭で栽培する野菜の種類が少し増えた。震災前ほどではないが、小規模・多品種栽培に挑戦しよう、という気持ちがわいてきた。今年(2017年)はキュウリ・ナス・トウガラシの苗を植えた。
 笹竹が茂っていた隠居の庭を“開墾”し、二十日大根やカブを栽培し始めたのが20年ほど前。その後、渓谷の小集落で栽培されている昔野菜の「三春ネギ」の苗と種を譲り受け、栽培を始めた。最初は種の保存に失敗した。思いあぐねていたとき、本からヒントを得て冷蔵したらうまくいった。以来、採種~保存~播種(秋)~育苗~定植と、2年がかりのサイクルを繰り返している。
 
 東北地方太平洋沖地震と原発事故が起き、放射性物質がまき散らされた。2013年初冬に隠居の庭が全面除染され、山砂が一面に敷き詰められた。長年かけてつくった土がはぎとられ、砂浜のようになったとき、家庭菜園を続ける気が失せた。
 
 ただ一つ、三春ネギの栽培は意地でも続ける、事故には負けない――そう決めて、全面除染が行われた年だけ種を冷蔵庫に眠らせたままにした。2年目に入ると種の発芽率は下がる。それでも、翌秋にまいたら発芽し、種を残すだけにした結果、今年ようやく間引き苗を食べられるところまで“復活”した。
 
 キュウリは昨年(2016年)、栽培を再開した。震災前は4本も植えて、生(な)りどきに困ったことがある。糠漬けのほかに、塩だけの古漬けにした。古漬けはもちろん保存用だ。秋・冬に食べる。
 
 今年も昨年同様、2本を植えた。1本を間違って根元から切断したので、あとから夏キュウリ2本を追加した。計3本で、1本は間もなく終わり、あとの2本が実を付けつつある。
 
 どういうわけか、今年はあちこちからキュウリが届く。糠漬けだけでは間に合わない。震災後初めて、塩だけの古漬けも始めた。採りたてのキュウリを甕に漬け足すたびに、緑色があめ色になっていく、秋から冬のおかずが増えていく――そんな充足感を味わっている=写真。

 震災直後、家庭菜園をやる人が激減した。ジイバアが栽培しても、子や孫は口にしない。つくったりあげたりする楽しみがなくなった。店(わが家)の野菜の種の売れ行きが止まった。原発事故に対する怨嗟が広まっていたのを実感したものだ。

 それから時を重ねること7回目の夏。除染が進んだこともあって、家庭菜園があちこちで復活しつつあるように感じる。わが菜園の復活度は5段階評価で3くらいか。
 
 次は――。月遅れ盆を境に、大根や白菜の種まきが行われる。隠居の庭には辛み大根がある。一度栽培したら、こぼれ種から自然に芽が出るようになった。今年もそうなることを願っている。今のところ白菜の種をまくようなスペースはない。代わりに栽培するとしたらカブか。
 
 もう子や孫のために、なんてことは考えない。ただただ自家消費のためだけに栽培する。

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