2017年8月19日土曜日

江名の「カオソ穴」

 長崎県対馬でカワウソが生息していることが確認された。絶滅したとされる二ホンカワウソかどうか、まではわかっていない。でも、野生のカワウソが日本にいた――というニュース=写真=には飛び上がった。
 昔、いわきにもカワウソがいたという話を新聞のコラムで書いたことがある。今や「資料庫」と化した2階でガサゴソやったら出てきた。1990年9月28日付いわき民報。「イワキランドの霧」というタイトルで月1回、いわきから姿を消した動植物(川前のオオカミ、矢大臣山のオキナグサ、三大明神山のクマゲラなど)を、9回にわたって連載したうちのひとつだ。

 小タイトルに「合磯(かっつぉ)の『カオソ穴』」、見出しに「もとはカワウソ海岸?」とあるが、地元の友人(歴史家)の話を咀嚼しきれなかったようだ。「合磯」に赤ペンで「江名」、「もと」には「合磯」と訂正が入っている。そのコラムの抜粋。

 ……カワウソは遊び好きで、しかも好奇心のかたまりのような動物だという。その魅力をとことん味わいたい人には、ギャヴィン・マクスウェルの『カワウソと暮す』(冨山房百科文庫)をお勧めしよう。同書は、著者が「キャマスフィアナ」と名付けたスコットランドのとある入り江で、西イラク生まれのカワウソ「ミジブル」と共に暮らした記録である。海と岩だけの別天地で、ミジは著者と同じベッドに寝、目覚めると室内で、戸外で飽きることなく遊び回った。

 例えば、海が荒れたある日――。「ミジは波に狂喜して戯れた。唸りをあげて寄せてくる砕け波の灰色の壁のなかへ、身を丸めて矢のように突進してゆき、波の重みも勢いも感じないようにきれいに向うへ抜けた。そうして来る波来る波を越えて、遥かな沖合まで泳いでゆき、ついには黒い点のような彼の頭が、白い波頭のあいだに消えてしまう」

 少し前置きが長くなったが、いわきでも遠い昔、これと同じような光景が見られたに違いない。平豊間の合磯海岸、ここはさしずめ「いわきのキャマスフィアナ」と呼ぶにふさわしい場所だろう。そこ(これにも訂正が入った=その裏側、江名の方)には「カオソ穴」と呼ばれる海食洞があって、昔、カワウソが住みついていたという言い伝えが残っている。

 語源からいえば、「カオソ」と「カッツォ」は極めて近い。地名は文字ではなく、呼び習わしから定まったという考え方に従えば、合磯海岸はもともと「カワウソ海岸」の意ではなかったか、とも思う。(中略)

 さて、このカワウソもまた、明治以降の近代化の波をかぶって姿を消し、高知県の一部にわずかながら生息している可能性があるだけだとも、既に絶滅したともいう。……

 こう書いてから27年が過ぎた。対馬のニュースに刺激されて、一日、カワウソのことを考えていたら、きのう(8月18日)の夕刊いわき民報で偶然、アクアマリンふくしまの飼育担当者による連載「かわうそのふちより」が始まった。月1回、1年間連載するという。

 せっかくだから、合磯海岸や江名の「カオソ穴」、あるいは福島高専と自由ケ丘団地の南側、矢田川の源流の地名=常磐上矢田町獺沢(おそざわ)=についても言及してくれるとありがたい。カワウソ由来と思われる「オソザワ」(獺沢)「オトザワ」(音沢)といった地名は全国各地にある。そうした民俗・地理にまで踏み込んだコラムだと、より身近な「いわきのカワウソ物語」になる。

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