2017年11月17日金曜日

コミュニティツーリズム

 自称「いわき特派員」だ。半世紀前、15歳で夏井川の水源・阿武隈高地から太平洋岸のまちに流れ着いた。まだ「いわき市」は誕生していなかった。いわきで記者になって以来45年余、今もいわきウオッチングを続けている。その過程で得た仮の結論は、いわきは「3極3層のまち」、あるいは「9つの窓を持ったまち」だ。
 いわきは広すぎて「実像」が見えない。「行政圏」ではなく「生活圏」の連合体としてとらえるなら、実像に近づけるのではないか。その際、水環境=川=流域を切り口にするとわかりやすい。
 
 いわきは、夏井川(人口の極=平)・藤原川(同=小名浜)・鮫川(同=勿来)の3流域でできている(大久川流域も加えることができるが、人口の極があるわけではないので、ここでは夏井川流域プラスαとして扱う)。それぞれの流域にはハマ(沿岸域)・マチ(平地)・ヤマ(山間地)がある。
 
 ゆえに、3極3層、いわきは3つの「合州市」。いわきという四角いジグソーパズルのピースは3×3=9。9つの窓から見える風景は、左右では同じだが上下では異なる。典型が食文化と植生だ。
 
 そんなことを思い浮かべながら話を聴いた。おととい(11月15日)夜、いわき駅前のラトブ6階・いわき産業創造館で「まち歩きがまちを変える――コミュニティツーリズムの可能性を探る」が開かれた=写真。講師は堺市や大阪市でコミュニティツーリズム(「まち歩き」)を事業化した観光家陸奥賢(むつ・さとし)さん(39)。
 
 略してコミツーは「地元の人による地元の人のための観光」だという。地元の人がガイドし、地元の店でものを買ったり食べたりする。つまりは、地元にカネが落ちる仕組みのツアーだ。ガイドには「ヒストリーだけでなくライフも語ってもらう」ともいう。土地の歴史だけでなく、ガイド自身の人生も盛り込むことで、ツアー客はその土地の歴史・暮らしを具体的に受け止めることができる。
 
「大阪あそ歩(ぼ)」では、300のコースがマップ化されている。基本は2~3キロ・徒歩で2~3時間のコースだという。

 私が属しているいわき地域学會では年に1~2回、歴史や考古、自然などに触れる「巡検」を実施する。11月23日には、来年(2018年)の戊辰戦争150年を前に、「笠間藩神谷陣屋と戊辰の役」と題して、神谷公民館発着で陣屋跡や周辺の慰霊碑などを見て回る。こちらは同じ「まち歩き」でも「まな歩」に近い。

「あそ歩」は「ライトに、ゆるやかに」が基本だという。「おなはま学歩(まなぼ)」は、それにならった「やわらかい巡検」だろう。ま、楽しみながら地域の価値を再発見するという意味では、「あそ歩」と「学歩」、地域学會の「巡検」に違いはない。硬くやるか、軟らかくやるか、手法が違うだけだ。

 地域学會の巡検は今回で58回目だ。いわきを知るための単行本や報告書も出している。街なか・郊外を問わず、地質・考古・歴史・民俗・文学・その他で「あそ歩」のコースをデザイン・再構成するくらいの蓄積はある。

いわきのハマの人間はいわきのマチやヤマを知らない、ヤマの人間はマチやハマを知らない、マチの人間はヤマもハマも知らない――というのが実態だろう。インバウンド(訪日外国人旅行)は、いわきではむしろ外国人の前に市民のためにある。そのために有効なのが域内観光=コミツー、とみることもできる

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