2018年6月23日土曜日

「ぶな石」の白い線

 前にも書いたが、日曜日(6月17日)朝、いわき市三和町の直売所「ふれあい市場」で買い物をしたあと、山をはさんだ夏井川渓谷の隠居へ行くのに差塩(さいそ)の山道を利用した。
 差塩で寄り道をした。標高667メートルの一本山毛欅(いっぽんぶな)に「市乾草供給センター」がある。車で行ける。目当ては山頂部の巨岩「ぶな石」。「宇宙石」だの「パワースポット」だのといわれているが、それはなぜ? とにかく見ないことには始まらない。

「ふれあい市場」からの流れで、「差塩良々堂(ややどう)三十三観音参道入口」の先から左折して山道に入った。間もなく山頂というところで、北方の山の稜線に風車群が見えた。大滝根山に近い「滝根小白井ウインドファーム」の風車だろうか。ほかにも阿武隈の山々が遠望できた。
 
 山頂のなだらかな傾斜を利用した牧草地に、でんと巨大な岩の塊がある=写真上。「ぶな石」だとすぐにわかった。地元では「一本山毛欅石」、略して「ぶな石」と呼び習わしているそうだ。さすがに存在感がある。 

 広い牧草地と巨岩の組み合わせに、アメリカの画家アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」を連想した。もとはしかし、うっそうとした森林だったろう。

「ぶな石」の上に立つ。幅2~3センチの白い線が一本走っている=写真下。その線の先には水石山が見える。地続きの別の岩には、並行する二本の白い線を斜めに横切るかたち(字でいうと片仮名の「キ」に近い)で白い線が走っている。
 白い一本の線の方だと思うが、線の先から春分・秋分の日だか夏至・冬至の日だかに朝日が昇ってくる――なんて話があるようだ。実際の方角はどうなのか。

「ぶな石」―水石山のラインを地理院地図とグーグルアースで確かめる。南東―北西だ。春分・秋分の日、夏至の日の朝日と「ぶな石」の白い線は無関係だろう。冬至の朝日がそれに近いところから現れるかもしれないとしても、それは偶然で、神様が意図したわけではない。

 鉱物に詳しい知人に聞いた。「ぶな石」は花崗岩で、白い線(岩脈)はペグマタイト(大きな結晶岩からなる火成岩の一種)だという。石英・長石などからできている。地下深部で固まる過程でひびが入り、そこへ石英などが入りこんだ――単純化していえばそういうことらしい。花崗岩にはよくあるのだとか。

 阿武隈高地は大昔、地層が隆起し、長年の浸食作用の結果、老年期の山々になった。人は年をとれば丸くなる。それと同じで、山も年をとればなだらかになる。一本山毛欅もそうした「残丘」のひとつで、周囲より硬かったために岩が残った、

 そうそう、差塩で遺跡発掘調査をした渡辺一雄さんの文章がある。

「差塩の遺蹟は場所柄、花崗岩の巨大な石がごろごろしており、その間から縄文時代の住居跡や祭りの遺構などが、検出されることが多い。平地の遺構にくらべると、規模はずっと小さい。小規模な遺構が川沿いに点在するのである。恐らくは、狩りのためのキャンプ地として利用した所であろう」(いわき地域学會『あぶくま紀行』1994年)

「宇宙石」うんぬんより、こちらの方に心が躍る。

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