2018年7月8日日曜日

昭和3年のオオワシ

“古新聞”シリーズ2――。90年前の昭和3(1928)年12月8日付常磐毎日新聞に、オオワシの記事が載る=写真。見出しは「内郷で大鷲生(け)捕る/猟犬も立ちすくんだ大もの」。
 内郷村・白水の炭鉱作業員Sさんが12月6日午前11時ごろ、舞い降りてきたオオワシを後ろから羽交い絞めにして生け捕りにした。オオワシは羽を広げると約8尺(240センチ)もある。先月18日、猟師のKさんが湯ノ岳で射撃し、傷を負わせたが逃げられたもので、そのときはさすがの猟犬も立ちすくんでしまった――現代風に書き直すと、こんな感じの記事だ。
 
 日本で見られるワシはオジロワシ、オオワシ、イヌワシ。イヌワシは留鳥だが、オジロワシとオオワシは冬、ロシア極東のカムチャツカ半島やサハリン(樺太)島などから北海道へ渡って来る。
 
 記事に登場するワシは「大きいワシ」ではなく、文字通り「オオワシ」だろう。冬鳥として北海道へ渡ってきた個体が海岸沿いにえさの魚類を追って南下し、たまたま湯ノ岳に現れたところを撃たれて負傷した。そのときは逃げのびたものの、18日後、湯ノ岳東麓の白水でついに人間の手に落ちた。後ろから羽交い絞めにする――これはこれですごい離れ業だが、それを許すほどオオワシは衰弱していたのだろう。
 
 戸沢章(のぼる)著『いわきの鳥』(2005年)に、昭和58(1983)年~平成11(1999)年の間に戸沢さんと仲間が確認したワシの記録が載る。
 
 イヌワシは平成11年2月(内郷・白水町)の1回。オジロワシも昭和58年2月(新舞子・横川)の1回。オオワシはそれに比べると目撃回数が多い。同59年1月(鮫川河口)、同3月2回(同)、同60年3月(同)、平成5(1993)年12月(照島)、同11年11月(遠野・林道)の計6回だ。
 
 いわきでは今もワシが現れるとニュースになる。40年前の昭和53(1978)年1月11日付のいわき民報に記事が載っていた。

「〇…イワシの大漁でにぎわう小名浜漁港では、おこぼれを頂くカモメが乱舞しているが、最近、カモメと一緒に3羽のワシが飛来、ハマッ子を驚かせている。/〇…このワシ、どこから来たのか不明だが、両翼の長さは1メートル以上で、カモメより二回りも大きく、こげ茶色の翼をいっぱいに広げるとさすが“鳥の王様”威圧感がある。」

 これに続くオチは「〇…カモメは時々海に浮かんでは疲れた体を休めているが、ワシはもっぱら魚市場の屋根が休憩所。『カモメが“水兵”なら、ワシは空の将軍』といわんばかり。」

 見出しが親父ギャグっぽい。「カモメは水兵/わしはワシ」。なんで「わしはワシ」? 「カモメは水兵」なら「ワシは将軍」だろう。それに、ただのワシではなく、くちばしが黄色いからオオワシだった、というところまで踏み込んでほしかった、なんて、かつての同僚・上司にケチをつけてもしかたない。
 
 このとき、私は記者7年目の30歳。子どもを引き連れてバードウオッチングを始めたばかりだった。「鳥が鳴いている」「花が咲いている」では記事(コラム)にならない。何という鳥が鳴いているのか、何という花が咲いているのか――以来、山野を巡る旅は40年たった今も続いている。

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