2018年10月27日土曜日

米づくりの現場

 中学校の同級生のなかには、地元に残って家業を継いだ人間もいる。先日行われた同級会は、彼らが幹事を引き受けて準備を進めた。
 その一人、片方の手足が少し不自由になった同級生は、若いころは地域農業の担い手だったに違いない。古希を迎えた今も、自分のところだけでなく、ほかの家の田んぼも頼まれて米をつくっている。コンバインを動かす分には、手足の震えも支障がないようだ。

 磐梯熱海温泉(郡山市)に一泊して、旅館のバスでまち(田村市常葉町)へ戻ると、その同級生が「家まで送ってくれないか」と言う。家に電話したが、奥さんは留守。ちょうどいわきへ帰る道筋だ。彼の住む集落を訪ねたことはなかった。好奇心も手伝って承知した。

 彼の家は県道から続く田んぼの沢道を1.5キロほど入った丘のふもとにあった。そこだけ何軒か家が連なっている。丘を越えると、隣町(田村市大越町)だ。三角形でいえば、二辺を通って行くところを、底辺を直行するようなものだ。いわきへ戻るには、寄り道どころか近道だった。

 家の前で彼を下ろすと、「倉庫を見てくれ」という。見た目はどこにもある農家の大きな物置。ところが、内部は“工場”になっていた=写真上。収穫した米を乾燥させ、ごみや不純物を除去し、玄米を量って袋に入れるといった一連の作業を機械がやる。コンバインはいくら、乾燥機はいくら、選別機はいくら……。合計すると、導入した機械の費用は1500万円にはなるようだ。

 フルカラーカメラによる選別機の説明を受けた。玄米にまぎれこんでいる高温障害の白未熟米(しらた)・茶色いカメムシ被害米・透明ガラスや樹脂・草の実などを瞬時に除去できるのだという。

農家はどこでもこれをやっているのかどうか。そこまで投資をするとなると大変なので、彼がよその家の選別も請け負っているのかどうか――。そのへんの話は聞き忘れたが、夏の青田、秋の黄金色の田んぼを見て「日本の原風景」などと癒されて終わっていた人間にも、収穫後のこの対応には厳粛な気持ちになった。米の食味と安全はこうして守られているのだ。

「福島県/放射性物質検査済/ふくしまの恵み安全対策協議会」のラベルを張った米袋があった=写真下。福島県内の米は原発震災以来、「全量全袋検査」を実施中だ。国の基準を超える米はない。99.9%は「ND」(検出できないレベル)で、安全は保証されている。なのに、彼の努力、つまり福島県の農家の努力は正当に報われているか、東京の消費者は一度、彼のような農家を見に来たらいい――そんな思いにもなった。
 車で送ってくれた礼なのか、彼は米袋に玄米を入れ、重量を量った。デジタル表示が「10.06」になったところで袋を閉じ、ひもで縛って、車のトランクに入れてくれた。カミサンが米屋をやっていることは黙っていた。それより、わが実家は床屋だから米は買って食べる。ふるさとの水で育った米を手に入れたのは、大人になってからは初めてではないか。そちらの方の興味がまさった。

「これから稲刈りだ」という。車で送る途中、稲穂が垂れている沢の田んぼを見て、「ここも、あそこも」と、コンバインを入れる場所を教えてくれた。それから5日たって迎えた週末、やっと一息ついているところだろうか。

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