2018年11月25日日曜日

“南北混交”が複雑に

いわき地域学會の第342回市民講座がきのう(11月24日)、いわき市生涯学習プラザで開かれた。
 昆虫が専門の鳥海陽太郎幹事が「生きものたちの息づくいわきの自然」と題して話した=写真上。毎年この時期、市民講座は自然部会の阿武隈山地研究発表会を兼ねる。阿武隈の発表会としては26回目だ。

いわきは「北方系の寒地性生物と南方系の暖地性生物がともに生きる混交地域」(鳥海幹事)だ。が、「いわきの平地・里山・山地、河川・池沼・湿原などの四季に息づく昆虫・動物たち」を観察・撮影していると、暖地系の北上・山地から平地への寒地系の適応など、混交度合いがいちだんと進んでいることがわかるという。

 北上中のものは、甲殻類ではクロベンケイガニ。茨城県の大洗あたりが北限だったのが、いわきでも見られるようになった。いわきを北限とする蝶のアオスジアゲハ、モンキアゲハ、ツマグロキチョウ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ツマグロヒョウモン、ホソバセセリ、チャバネセセリなども、年々分布を北に広げている。

世界中に分布するヒメアカタテハは、いわきでも秋になると個体数を増す傾向がみられる。2000キロの旅をするアサギマダラは、芝山や水石山への飛来が定着した。特に、ツマグロヒョウモンは、いわきでは台風が運んでくる「迷蝶」だったのが、近年は繁殖するようになり、着実に分布を北へ広げているという。セイタカアワダチソウの花に留まって吸蜜する。その繁殖を手伝っている虫の一種ということになる。

 逆に、寒地性種ながら暖地の気候にも適応して分布を拡大しているのがウスバシロチョウ。数年前からまれにいわきの山間部でも記録されるようになった。トンボでは、高地の湿原などに見られるオオルリボシヤンマやルリボシヤンマが、いわきの丘陵地(石森山など)でも確認されるようになったという。

 こぼれ話がおもしろかった。虫の撮影のためにかがんでいると、いつのまにかイノシシの“うり坊”たちに囲まれた。当然、母親が近くにいる=写真右。カメラを構えながら後ずさりした。熊対策に鈴が要るように、イノシシにも鈴が必要になったという。

ときどき翅がぼろぼろの蝶を見かける。野鳥から逃げ延びたのだという。“南北混交”の実態は絶えず流動している。古い“南北混交”観をアップデート(最新化)するいい機会になった。

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