2018年12月9日日曜日

『空をゆく巨人』出版サイン会

 世界的な美術家蔡國強さんといわきのつながりを描いた川内有緒さんの「空をゆく巨人」が、今年(2018年)の開高健ノンフィクション賞を受賞した。11月末には集英社から本が出た=写真下1。
同じ職場の仲間だった後輩を介して取材を受け、単行本の恵贈にあずかった。いわき市平のヤマニ書房本店で川内さんのトーク&サイン会が開かれるというので、整理券ももらった。後日、書店からも電話が入った。きのう(12月8日)午後、イベントが始まる前に川内さんと少し話した。終わって、サイン会=写真下2=の列にも加わった。

 川内さんは、母親がいわき市遠野町の上遠野(かとおの)出身だ。去年、わが家へ取材に来たときにも言っていたが、祖父の葬式で屋根の上から餅(もち)と小銭がまかれたことに度肝を抜かれたという。川内さんはそのとき、“やさぐれ高校生”だった。
 トーク会場で配られた「私といわき」の小文を読んで、彼女の祖父に興味を持った。「母の実家は大きな茅葺(かやぶ)き屋根で、いつでも庭先には牛の匂いが漂っていました。母の父(私の祖父)はたいへんな読書家で85歳くらいのときに『若草物語』を読んでいて、読み終えると、本を私にくれました。私も『若草物語』が大好きになり、古い文庫本をなんども読み返しました」

祖父がおよそ92歳で亡くなり、葬式のために上遠野の母の家へやって来た“やさぐれ高校生”は、「祖父の部屋に潜り込み、大量の蔵書を読みふけっていました。不謹慎なことに、ああ、この部屋にずうっといたいとうっとりしていました」。

 川内さんは、シャプラニール=市民による海外協力の会のスタッフやシニアアドバイザーと交友がある。「バウル」と呼ばれるバングラデシュの吟遊詩人を追った『バウルを探して――地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎、2013年=第33回新田次郎文学賞受賞)には、旧知のシャプラの創立メンバーからバウルについていろいろ教わったことが書いてある。バウルを追い続ける川内さんの執念が実った作品だ。

 ほかの著作もそうだが、川内さんは国境を軽々と越えていく。今度の『空をゆく巨人』もそうだ。いわきの人々に同行して在米の蔡さんを取材した。

その根っこにあるものは人間への尽きない興味? 同じ文脈でいえば、85歳で『若草物語』を読む川内さんの祖父は少年のようにしなやかな心を持っていた。ノンフィクション作家としての川内さんは、なにがしかこの祖父の影響を受けていないだろうか。いや、川内さんはまちがいなくいわきのDNAを持ったノンフィクション作家だ、と私は思う。

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